特別編 ゲームとレーティングと表現規制あれこれ
まえがき
祝! Switch版スーパーリアル麻雀PV発売! そして即配信停止!
配信開始から「光から何かがこぼれて見えている」という話題が聞こえてきた時点で、こうなる未来は皆様大体予期していたものかと思います。
このSwitch版スーパーリアル麻雀PVは元々セガサターンにて発売されていた移植版を、再度移植した作品になります。そうなると「あれ? なんでかつて発売されていた作品がそのまま移植ができなくなるんだ?」という疑問が生まれ出るかもしれません。そんなわけで今回の記事はゲームの中の表現規制問題の話です。こういう話、お好きでしょ? 私は嫌いですけど。
ファミリーコンピュータの誕生
日本においての家庭用ゲーム機はファミコンが起源というわけではありません。ありませんが、このゲーム機によって日本の据え置き型ゲームの爆発的普及が始まったは事実なのでここから始めることにします。
任天堂はそもそも当初、他社にファミコンソフトの開発を許す方針ではなかったとされています。その後方針転換を行い他社に開発を開放することとなったのですが、とにかく厳しいチェックを行ったことで有名です。いわゆる「任天堂チェック」というものですね。まず「エロ厳禁」です。ファミコンゲームの中では性的な描写はほとんど許されませんでした。ギリギリを攻めたもので……「ゴルゴ13」の女性の下着姿とベッドシーンの影くらい? これはゲーム機というものがまだ身近になかった頃の時代、明確に「子供向けのおもちゃ」であるということをアピールするために必要だったのではないでしょうか。また残酷な描写も規制していたらしく、「東方見文録」では途中で主人公の一人が「死ぬ」のではなく、「いなくなる」という表現をしています(ただしこのゲーム、別方向でぶっとんでいて今では発売できないなんて話になっています)。
PCエンジンの場合
ファミコンの登場後も様々なゲーム機が現れたのですが、ユニークな経緯を辿ったものでNECホームエレクトロニクスが発売したPCエンジンがあります。このPCエンジンは当初から他社の参入を強く促していたらしく、ナムコが登場時力を入れていたハードです。そんなハードなのですが、実は表現規制を敷いていなかったという証言があります。当時ハドソンにてPCエンジンに触れていた開発者岩崎氏は同人誌内にて、「全くそういうことを考えておらず、脱衣麻雀『麻雀学園』が発売されてからまずいことに気がついた」という話を伝え聞いたと話しています。その「麻雀学園-東間宗四郎登場-」は女の子が服をブラまで脱いでしまい、はっきり乳首まで描写されていました(しかしあくまで当時のゲーム機なりの性能のものでしかありませんが)。これが問題となり、再生産分は「麻雀学園マイルド」としてグラフィックを手直しされたものとして発売されました。
この後「理由のない脱衣は駄目」「だけど理由がある脱衣によるサービスシーン自体は許容する」といったふんわりとした規制がNECにより敷かれ、以後に発売されたPCエンジン版「スーパーリアル麻雀P4カスタム」においては「エアコンが壊れているので主人公が勝つと室温があがり仕方なく女の子が脱いでいく」というぶっ飛んだ理由付けがされています! しかもこのゲームでは、女の子は下着を脱いだ下に下着を履いており、どんなに頑張っても裸を見ることが出来ません。あくまで下着のみです。開発者インタビューにおいて「NEC-HEさんの方から『麻雀に勝って脱がすという要素だけはなんとかして削ってください』と言われた」なんて発言もあります。……が、その他のゲームを振り返ると、「ゼロヨンチャンプ2」では裏技で女性の裸を見ることができますし、「コズミックファンタジーシリーズ」では「お約束」としてヒロインがシャワーシーンを覗かれたり着替えを見られたりするのが必ず(!)入っていましたし、後年の日本物産発売の「セクシーアイドル麻雀・野球拳の詩」あたりでは「AV女優の出演作から上半身アップを切り取って動画再生」なんてこともしていました……。書いてて思ったんですが、これ正気ですかね? 日本物産もさることながら、NEC-HEの判断基準もよくわかりません。流石にこの頃となると「子供が無条件で脱衣麻雀買えるのはおかしくないか?」という反応に応えたのか、自主規制として「18才以上推奨」「15才以上推奨」といったレーティングが作られることになりました。セクシーアイドル麻雀・野球拳の詩も、18才以上推奨です。
圧政任天堂スーパーファミコン
さて、PCエンジンから少し経って発売されたスーパーファミコンですが、「無法地帯」といえなくもないPCエンジンとは対象的に、こちらはファミコンから引き続き任天堂チェックがガッチガチです。『着替えは許すが脱衣は許さん』とばかりに、麻雀ゲームは水着が限界で下着も許してくれません。そのため「美少女雀士スーチーパイ」では勝利をしても水着で終わり、前述の「スーパーリアル麻雀P4」が移植された際は「勝利をすると女の子とデートができる」という内容に変わっています。一応海にいって水着姿を見せてくれますが。
また、「メタルマックス2」では焼死体はそもそもまっ黒焦げのキャラとして表現されるはずが、任天堂チェックによりエビフライのような天ぷらに変えられています。
この頃になると、任天堂チェックは『スーパーマリオクラブ』という組織により行われるようになり、表現規制のみならずゲーム自体の点数付け、売上予測もされるようになりました。(メタルマックス2は売上予測で40万本という評価を受けていたのに、資金問題で初回10万本しか出荷できなかったと語っています)
後期、PCエンジンが年齢制限レーティングを設定したのとは対象的に、スーパーファミコンでは結局そういうゲームは全て弾かれてしまったため、全年齢向けソフトしか発売されておりません。ジーコサーカー除く。
32bit機戦争
スーパーファミコンの発売後期では、3DO、セガサターン、プレイステーション、PC-FXといった32bit次世代機が次々に発売されました。表現力が向上した分、よりリアルに描写できてしまう……という問題もありますし、PCエンジンがやり過ぎたこともありますし、各社自主規制でソフトに対して様々なレーティングを貼るようになりました。
3DOですと「スーパーリアル麻雀P4+相性診断」では、PCエンジンでは不可能だった上半身の裸体を描写できるようになりました。セガサターンも負けじと展開し、「スーパーリアル麻雀PV」はアーケード版の完全移植です。PC-FXでも「スーパーリアル麻雀PV」は発売され、セガサターン版とほぼ同等の内容となっています。
なぜこんなことができるかというと、レーティングがしっかり区分けされていれば、エッチなゲームが存在しても良いだろうという判断があったものと推測できます。
3DOはE(一般向け)、16(16才未満不適格。過激な暴力描写がある場合、軽いお色気シーンがある場合)、AO(成人向け。18歳未満に販売不可。アダルトゲーム)の三種類のレーティングが用意されました。
セガサターンは全年齢、18推(18才以上推奨)、X指定(18才未満販売禁止)の三種類。18推とX指定の差はなんなのか、というと過激かそうではないかの違いになるんですが、具体的にいうと「胸がでているかでてないか」になると思います。X指定の「ファイナルロマンスR」ではアーケード版の移植となっていてちゃんと上半身の裸体を見ることが出来ますが、後年に18推として発売された「ファイナルロマンス4」では完全な脱衣をすることなく、PCエンジン版のスーパーリアル麻雀P4のような下着描写でとどまっています。『だったら4もX指定で出せばよかったのでは?』と思われるかもしれません。実はセガは96年を最後にX指定のゲームを認可する方針を転換し、『最低でも18推』という方針を定めました。そのためそれ以後でた脱衣麻雀ゲームは下着描写まで、となってしまっています。しかし発売当初はこの定義もあやふやだったらしく、『18推なのに胸がばっちりでてる麻雀同級生SPECIAL』『MA18というよくわからないレーティングになってるアイドル雀士スーチーパイSpecial』といったソフトもセガの審査をくぐり抜けて発売されております。
PC-FXも全年齢、18推奨、18禁の三種類のレーティングです。PC-FXの特徴としては、セガのように途中で日和って制限をかけたのではなく、「途中から18禁を解禁したこと」にあります。……まぁこれも事情があって、NECと実質ファーストのハドソン除くと、他社製ゲームソフトが5本(うち1本はお得なセットパック)という壊滅的事情があったからでしょうか。18禁ソフトを排除すると、なんと他社製ゲームソフトは二本だけになります。そんな理由もあってPC-FXを最後にNECはゲームハード事業から撤退します。お疲れ様でした。
ソニーがPS1で初参入したとき、セガやNECのような年齢制限ソフトを許可しておりませんでした。かなり厳しく審査をし、いわゆるお色気要素は特に厳しく弾かれたのです。『よいこのプレイステーション』だからでしょうか。コナミの「悪魔城ドラキュラX月下の夜想曲」においては、敵キャラのサキュバスを描いたデザイナーがそのことをしらず、そのまま胸を露出しているように描いたところ、NGを食らってリテイクしたという逸話もあります。タカラの「ゆうわくオフィス恋愛課」は「PSの限界に挑戦した」と営業が息巻いたという恋愛SLGなのですが、キスしてベッドシーンに倒れ込むような情事を匂わせるレベルで止まっています。初期のサターンかPC-FXならばっちり描写したことでしょう。そんなに厳しいPS1なのですが、これも初期ではいまいち方針が定まっていたなかったらしく、「宝魔ハンターライム」では変身シーンでヒロインのライムが裸になりお尻がばっちり写っています。また中期以降「ヒロインのパンチラすら許さん!」という方針が定まったようなのですが、自社のダブルキャスト内でヒロインをパンチラさせてしまっています。ここらへんはいまいちよくわかりません。
ニンテンドウ64に関してはレーティング云々がなく、相変わらずの任天堂チェックです。というかいまだにROMカードリッジ採用の機体なので、わざわざそういうゲームを出そうとする会社もなく……あっ! 「ワンダープロジェクトJ2」でパンチラがあった! まぁそんなくらいです。
そしてCERO設立へ
時代が進み2000年を超えた頃、『プラットフォーマーで審査基準がバラバラのため、マルチソフトでレーティングが違う』なんてことも起こりえたそうです。そのため2002年、コンピュータエンターテインメントレーティング機構「CERO」が設立されました。これにより統一基準でレーティングを定めることができるうえ、何かゲーム業界に批判が起きた時に「うちはちゃんと自浄作用をもって審査しています」と言い張れる盾を用意したわけですね。……それが実際に効果を有しているのかは、確認しようがありませんが。
さてこれでドリームキャスト、PS2,ゲームキューブ、XBOX上でマルチソフトはすべて同じ表現で発売できるように……なりませんでした! これはなぜかといいますと、任天堂やセガ、マイクロソフトが「CEROを通しているならOKです」というスタンスを取っていたのに対して、ソニーのみ「うちはCEROよりもさらに厳しい基準を設けます」としていたからです。例えばPS2,GCで発売された「Killer7」はヒロイン、サマンサと性交っぽいことをするシーンが存在しますが、PS2版ではなぜか爆音で音楽を聞いているだけのシーンに差し替えられています。CERO的には両方とも18才未満販売禁止であるZ指定であるはずなのに。
つまりこの時代からついに「任天堂よりもソニーの方が規制が厳しい」という状態になったと言えます。任天堂は任天堂チェックを止めたのです。
この傾向は世代が進み、PSP、DS、PS3、Wiiとなった頃でも変わりません。(ただしPSPにはUMD-PGというエロビデオ的なものもOKな規格があります。まぁPS2がエロDVDも見れたことと同じでしょう)
この時代のソニーの厳しさを象徴するようなソフトが二例存在します。一つはWiiとPS2で発売された「お掃除戦隊くりーんきーぱー」。最初Wiiで発売されましたが、後日PS2で発売された際は「ヒロインのお風呂シーンで明らかに湯気が増えていて露出が減っている」「リボンを体に巻いていたシーンが水着に変更」と、変更点が存在しています(なお、両方共CEROはCで同じです)。もう一つはPS3とXbox360で発売された「Xブレード」。こっちがPS3のパッケージ。こちらがXbox360のパッケージです。見比べてみてください。……わかりますね? なんとパッケージのヒロインの下着面積が違うのです! PS3はフルバック、360はTバックです。
こんな感じで独自規制を敷いていたソニーなのですが、なんとPS3の中期以降はだんだんと寛容になってきます。独自規制が敷かれるようなソフトの話が少なくなってきて、マルチソフトの場合は他機種と同程度の露出になってくるようになりました。「CEROを通していればまぁ別にいいよ」ということですね。
このCERO時代の問題点としては、CEROは結局の所「過剰な自主規制の団体」でしかないというところでしょうか。例えば裸の露出も乳首の描写は許されませんし、最高のZ指定でもグロ描写に定評がある「モータルコンバット」は日本で発売できる見込みがたちません。コレに対してのCERO側の言い分がこちらのインタビューに非常によくまとまっていますので、ぜひ皆様暇な時間にご一読ください。
光の到来
さて、今では各社独自規制を止めてCERO任せになったんだね……で、この記事が終わればいいのですが、昨年大事件が起きました。ソニーが再び独自規制を敷いてきたのです。「のらトト」というゲームがそれをまともにうけました。Vita、PS4、PC、Switchとで発売されたこの美少女ゲームは、不可思議なことにPS4版のみ大量の光が降り注いで素肌が隠れているという状態でした。
Vita版とSwitch版はほぼ同内容なのにもかかわらず、なのです。つまりPS4版のみ、修正をするようにソニーが指導したわけですね。その他、美少女ゲーム「ネコぱら」においては「Switch版には胸の揺れ方がオプションで決められるのに、PS4ではそのオプションがない(揺れることは揺れる)」などという不可解な仕様に変えられています。それに関しては詳細にIGNが記事にしています。
IGNはもっと厳密に踏み込んで比較した考察を行っていますが……ソニーから公式に「このような方針を取りました」と明確に発表したことがないため、いまいち外部からはどのようなことが起きているのか、わかりにくい状況となっています。
わかりにくさに拍車をかけているのは、全てのゲームが同じ規制を受けているというわけではない、ということです。「花咲ワークスプリング」はPS4、VITAのマルチタイトルではありますが、PS4に独自の光や湯気の追加といったものはなく、VITAと同じになっています。なぜこのような仕様で通ったのか、よくわかりません。また、コーエーのDEAD OR ALIVEXtreme3Scarlettあたりは「何をどう頑張っても無理なんじゃないの?」と思われるゲーム内容だったりするんですが、金のうちわ、やわらかスキンケアの要素を削除しつつも概ねのゲーム性を維持し発売可能となっています。
今に至る
ゲームの表現規制の歴史を大雑把に言い表すとこのようになっています。Switch版スーパーリアル麻雀PVがそのまま移植ができなかったのは、CEROが設立される前の基準と、されたあとの基準とが違うからなんですね。
プラットフォーマーは自分のところで発売できるソフトを指定することが出来ます。ファミコン発売時の任天堂のように「うちは健全な遊具を発売しているんだ」とばかり、厳しいチェックをするのも自由ですし、それと似たようなことをソニーが行うのもまた自由です。
しかしインターネットにて海外の作品に容易に触れられるようになった現代、レーティングさえしっかりとしていれば裸もベッドシーンも描写OKの映画や海外ドラマが流れてくる一方、ゲームではどんなにレーティングが上でも乳首の描写も許されない、という状況に私は首を傾げざるを得ません。
しかしCEROは果たして批判からゲーム業界を守る盾なのか、はたまた表現規制の敵なのか、それに結論を出すことはまだ私には無理なのです。この問題は他の要因が多く、複雑怪奇すぎるので。
上記の流れはあくまで大雑把なものでしかありません。サターン以前のセガコンシューマ機や、ワンダースワン、ネオジオポケットといった機種は私自身がそこまで詳しくないのでかけません。もしそれらについて知りたいと思ったら……私のフォロワーなら知ってるはずなので、その人達に聞いてみてください。それではお疲れ様でした。またどこかでおあいしましょう。