2Dシューティングゲームははたしていつ「衰退」したのか
定期的にネットの海を騒がせる話がある。
それは『2Dシューティングゲームはマニアに合わせてどんどん高難易度していき新規層が入れなくなってどんどん衰退していき最後には滅亡した。新規層の大事さを忘れてはならない』というものだ。
実際シューティングゲームは滅亡どころかプラットフォーム各種で展開され根強い人気を確立しているジャンルであるのだが、この論はとても人気があるらしくバズりやすい。『人は正しさよりもわかりやすさを求める』という説があるが、まさしくそれだと思われる。
さて今回はこの説をシューティングゲームマニアではない奴が、少しばかり違った観点で検証していきたい。ちなみに私は斑鳩なら3面で力尽きる程度の腕前です。
まず、シューティングゲームが最も興隆していた時代はいつだろうか。
スーパーファミコン全盛期? ファミコン時代? なるほどその頃ならばアーケードゲームでもシューティングゲームは大人気だったはずだ。
ところがファミコンの売上ランキングを確認してみると、おそろしくシューティングゲームが少ない。
売上がミリオンに到達したのはゼビウス、スターソルジャーのみだが、グラディウス、スターフォースといった有名作は及ばない。そのゼビウスにしても発売された1984年はロードランナー、四人打ち麻雀、テニス、F1レースとミリオンセラー満載年だ。50本前後あるファミコンのミリオンセラーソフトのうちシューティングが二本だけというと、いささか物足りなさを感じないだろうか。
ではこのときからすでにシューティングは衰退していたと言えるのだろうか? そうなると「マニアに合わせて高難易度していった結果衰退していった」論説はやはり現実に沿っていないことになることがわかる。このときのファミコンソフトのシューティングはアーケードよりも難易度がマイルドに調整されたり、裏技で残機数を増やしたり、無敵になるモードを導入しているからだ。
そうそう、アーケードのことを忘れてはならない。
少し思い出して欲しい。シューティングが輝いた、日本を熱狂させたアーケードゲームが歴史に名を残していることを私達は知っているはずだ。
そう、スペースインベーダー。
1978年にアーケードに登場した、百円玉の年間発行数を三倍に増やすはめになった驚異のゲーム。シューティングの全盛期はこのインベーダーブームのときだとみなすのが妥当なのではないだろうか。大ヒットしたゼビウスのアーケードが1万5千台の出荷に対して、スペースインベーダーの出荷数は純正品が10万台、サブライセンス仕様の台が10万台、無許可コピー台が30万台出回ったとされている。その差は圧倒的だ。
シューティングゲームの全盛期がここならば、その後のファミコン、スーパーファミコン時代や、インベーダーブーム終了後に系譜として続いたアーケードはすでに衰退期……良くいえば安定期だとみなす事ができる。
最初にビッグバンのような大ブームが起きているのだ。高難易度云々関係なしにそれは縮小する。むしろ今でも同ジャンルがプラットフォームを変えて新作が出続けていることに感嘆すべきではないだろうか。
……ここで記事を終えてしまってもいいのだが、もう少し観点を変えてみよう。そもそも「シューティングゲーム」の定義とはなんだろうか?
『なにを今更』と思うかも知れない。自機が戦闘機でバリバリ弾を打ち敵弾をかわして敵をなぎ倒して進んでいくのがそうだと思うだろう。ボムが利用できたり障害物にあたったらミスになり、パワーアップアイテムが出てくるのが貴方の頭の中に思い浮かぶはずだ。
ちょっと困ったことに、「シューティングゲーム」の中には自機が人間であったり武器が刀であったり障害物にあたってもミスにならなかったりボムがなかったりパワーアップの概念がなかったりするものもある。さあ、これらを包括する定義はどうすればいいのだろうか? 先に述べたスペースインベーダーやゼビウスといったタイトルもうまくくくれるような定義にしないといけない。そうなると必要最小限で根幹部分を突いた定義が必要だ。
そうなると「自機を操作し敵の攻撃をかいくぐり撃破してステージクリアを目指すタイプのゲーム」あたりに落ち着くだろう。これならばスペースインベーダーも怒首領蜂も東方シリーズもうまくくくることができる。シューティングゲームの定義はこれでいこう。
……ちょっと待って欲しい。この定義はいくらなんでも大きすぎやしないだろうか? 敵の攻撃をかいくぐり、敵を撃破するゲームは至るところにあるだろう。シューティングゲームに限らず。魔界村やロックマンや悪魔城ドラキュラはそうであるし、攻撃方法を変化させた例でいえばスーパーマリオブラザーズも入ってしまうだろう。
そう、そうなのだ。スペースインベーダーというビッグバンが起きた。そしてそこからシューティングゲームは本質をそのままに細かなルールを付け足しジャンルを変化させてアクションゲームやアクション要素のある他ジャンルへと進化したのだ。今あるアクションゲームはシューティングゲームだ。
かつて地球の支配者は恐竜であった。一昔前は恐竜たちは気象の大異変により絶滅した、といわれていたが、今では体を小さくし鳥類へと姿を変え進化し生き延び続けている……という説が有力である。シューティングゲームも同じことが言えるかも知れない。姿形を変え進化し、しかしその中の骨子はそのままに、我々を今でも楽しませてくれている。
注意兼謝罪:ここまで真面目に読んでくださった方には申し訳ないのですが、この理論でいうとスペースインベーダーがアクションゲーム・シューティングゲームの始祖ということになるのですが、本当にそうであるかゲームの黎明期の歴史にそこまで詳しくないので正直なところわかりかねます。もしスペースインベーダーの元になった作品があったら教えて下さい。
追記:
「もしスペースインベーダーの元になった作品があったら教えて下さい」スペースインベーダーはブロック崩しから着想を得たと西門さん自身が語ってますな / 1件のコメント https://t.co/VqtBZOUHh9 “2Dシューティングゲームははたしていつ「衰退」したのか - 平和的なブログ” https://t.co/4YM6qKJAOZ
— 池谷勇人@ねとらぼの人 (@tekken8810) 2020年1月11日
元はインベーダーの元ネタはブロック崩しとのことです。ありがとうございます。
ただそうするとブロック崩しがシューティングゲームの元祖だ、という論が出てきそうなのですが、果たして当時生きていなかった私がそこまで踏み込んでしまっていいのかという。ブロック崩しのルールとシューティングゲームの定義には随分と距離があるように思えますが、これは現在に住む人間の観点であるため、当時の空気を知らない空論な気がしてなりません。
さらに追記:
たまたま流れてきたんだけど、スタソルの売り上げは100万にとどいてません。ぼくも知って驚きました。ミリオン届いたシューティングはゼビウスただ1本です→2Dシューティングゲームははたしていつ「衰退」したのか - 平和的なブログ https://t.co/D3O0pwP9nk
— 岩崎啓眞@スマホゲーム屋+α (@snapwith) 2020年1月15日
このような指摘を頂きました (岩崎啓眞さんは当時ハドソンの中でバリバリ活躍していたレジェンドです)。スターソルジャーはここで「約100万本」という表記をされていましたが、100万本には至らない数字という確認ができましたので、本文を訂正させていただきます。ありがとうございます。