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反発心から見える作家性 -新桃太郎伝説-

 30年ほど前のかつて少年ジャンプの巻末ページには読者投稿ページがありました。様々なコーナーがあり読者は頭を捻っていろんなネタを競い合って投函し、編集者は何千枚とくるはがきを確認しながらキラリと光るものを拾い上げそれをまとめあげたのです。
 SNSがまだなくテレビが一方的な情報発信装置として圧倒的な力を誇っていた時代、読者のなかには読者であるだけで満足できずに発信しかえそうとする猛者が生まれてきたのです。
 そしてそんな中、こんなコーナーがありました。「評論家をぶっとばせ!」。テレビや雑誌にあふれる評論家を評論しかえしてやろう、というもの。「お前は偉そうにゴタゴタいうけれどどんだけ詳しいんだよ!? お前がやれよ!」的なでした。当時盛り上がっていたファミコンブームの中で、「ファミコン評論家」というものが現れはじめたのです。……が、この時はまだ評論家をぶっとばせ!コーナー内でファイナルファンタジーを持ち上げて、ドラゴンクエストを落とせば通ぶれると思っている」などと読者から指摘されてしまうほどのものでした。つまり、あんまりゲームに詳しくない人がゲーム評論家を名乗ってそれっぽいことを言っていて、それにたいしてみんなが内心不満を持っていた…なんて状況だったわけです。
 「いったいなぜ桃太郎伝説の記事にそんなこと言いだすんだ?」と思う人が出始めるだろう頃なので、話を本題にもっていきましょう。今回の記事は「新桃太郎伝説の話です。


 桃太郎伝説? 桃太郎電鉄じゃなくて?」と思う人もいるかもしれません。桃太郎伝説とはドラゴンクエスト1が売れ、日本でJRPGというものが芽生え始めた頃、ハドソンによって発売された日本の昔話をベースにしたファミリーコンピュータRPGです。桃太郎電鉄のほうはこの後にスピンオフのテーブルゲームとして生まれたんですね。
 桃太郎伝説は桃太郎が主人公で、人に迷惑をかける鬼たちをこらしめるために旅をし、鬼と1対1で戦い進む、まさしくドラゴンクエスト1そっくりな代物なのですが、特色としてはコメディチックでギャグが詰め込まれていて、かつ世界観が和風でおおらかで適当といったものです。たとえば敵は「あかオニ」「あおオニ」といったオーソドックスなものから「べんきょうのおに」「またあおオニ(またあおオニ、といって逃げ出すことがある)」といった適当なものが混ざっていたり、「ジャキチェーン」という連続攻撃が得意な敵がいたり、道中で話しかけてヒントをもらえるキャラがお地蔵様だったり、オープニングで桃を食べようとするおじいさんがナイフとフォークを握っていたり、畑のなかにう〇ちにしか見えないキャラがいて話しかけると「ぼくはう〇ちだよ!ぷりっ!」というセリフが聞けたりと…。
 こんな感じで一風変わった世界のRPGはヒット作になりました。その後PCエンジンにて移植が行われ「桃太郎伝説ターボ」として発売され、そして直接の続編である「桃太郎伝説2」がPCエンジンにて発売されました。こちらもほんわかといて適当な世界観にパーティバトルへと進化したバトルが搭載された本格的なRPGです。PCエンジンの力を存分に振るい最大20人パーティが組め(といってもそのうち直接戦闘でコマンド入力するのは四人だけで、最大時でもお助けキャラのお地蔵様が10人分、ただのお荷物キャラのう〇ちが3人分なのですが!)、イベントを多数組み込んだ正統派なパワーアップ作品となっております。
 PCエンジンではほかに、コメディタッチで初心者でもクリアできるように調整されたイージーモードを搭載している(当時は結構珍しかったんですよ)桃太郎活劇が発売されています。

 こんな風に桃太郎作品は広く展開されていたわけですが、どれも世界観が独特で、コメディタッチです。ただし根本が「愛と正義」であったため、オニたちはあくまで「こらしめる」であり、死を忌避していたり、改心したオニと村人が一緒に祭りを楽しむさまが描写されていたり、ただふざけるのではなくて締めるところはきちんと締めて真面目にゲームをプレイする子供たちに楽しんでもらおうと思える真摯な姿勢が見れるのです。

 2の後にさらに続編である桃太郎伝説外伝」をはさみ、スーパーファミコンにて初めて桃太郎伝説が展開されたのが今回紹介する「新桃太郎伝説となります。この新桃太郎伝説、話としては1の続編に位置付けられていて、いわば2のリメイク作品になっています。そしてこの作品、桃太郎ファンにとって結構な衝撃をもたらしたものでありました。

 その理由は、作風がいままでのものと違っていたからです。たしかに表面上は今まで桃太郎シリーズとおなじように、昔話ベースで鬼たちと戦いこらしめるものです。しかしそこで展開するのは、シリアスで重厚なストーリー。かつて桃太郎と戦い愛と勇気を知ったエンマ大王は地下に囚われ、鬼の世界を統括するバサラ王が人の世界をも征服しようとダイダ王子を送りつけてきました。異変に気が付き桃太郎もダイダ王子と戦いますが、手も足も出ず敗北。そして今まで持っていた力と技もすべて吹き飛ばされてしまい、いわゆるレベル1の状態に戻されてしまうのです。おじいさんとおばあさんの住む家で寝込んでいた桃太郎が目を覚まし、そんな状態でも再度鬼退治の旅にでる……というもの。各地をめぐり鬼の支配から村を開放し、仲間を集めていくという流れになるのですが、その各地の鬼のやることが笑えないものになっています。
 花咲の村では桜の木は焼かれてしまっているし、金太郎の住む村では子供たちが檻に閉じ込められ、その檻に巨大な岩が今まさに落ちようとしているところを必死に金太郎が一人で岩を支えてこらえているという状態。そんな悪行がシャレにならないレベルの中で特に残忍さ・狡猾さが目立つ鬼がいます。それが初期からお邪魔キャラとしてイベントごとに顔をだしている「カルラ」です。

 カルラはいたるところで桃太郎の邪魔をするのですが、それがえげつない。桃太郎にやられ改心した部下の鬼を殺してしまうのは当たり前、村に毒の雨を降らせて大量虐殺、人魚も大量虐殺(その血のためか人魚たちが住む村に入ると画面が赤く染まる)、そしてライバルキャラであったダイダ王子も殺害し、しかもしかもそれらをすべて桃太郎になすりつけて出世の糧にしているというもの。最終的にはバサラ王を亡き者にし、その後釜を狙おうと暗躍しています。その野望は結局叶うことはないのですが、なんとカルラはヒロインかぐや姫を殺し、世界を崩壊させてしまうのです! 
 わずかに残った大地に生き残った人々が集まり、改心した鬼たちが一生懸命人を救おうとし、鬼ヶ島から食料を持ち出してはいるものの多くの人たちが死んでしまった…。一刻もはやくカルラを、バサラ王を止めなければならい。桃太郎と仲間たちはカルラたちがいる地獄へと向かうのでした。
 
 バサラ王を改心させ、カルラを打倒し、かぐや姫も復活し崩壊した大地も蘇る。これから人と鬼とが手を取り合い、新しい国を作らなければならないのだ……! エンディングはこういうものです。なんと、甦ったのはあくまでかぐや姫と大地であり、死んでしまった人たちや鬼はそのままという状態なのです。死を忌避していた桃太郎シリーズではありえない、といっていいのではないのでしょうか。


 開発期間がわずか4ヶ月ということもあり、ゲームバランスや一部の処理の重さに甘さが残っていて、そこが評価の減点対象となっているものの、全体を見ると「ハードで重厚なストーリーに豊富な仲間の個性が光る」という点が評価され、名作と呼ばれる扱いを受けている作品なのではないか、と言っていいと思います。

 さて、ここまで読んでいただいて皆様には「なんで新桃太郎伝説はこんなにハードなストーリーになったの?」という疑問が浮かんだかと思います。それを明確に語ったインタビューを私は見つけることができませんでしたが、いくつか思い当たる節がなくはないのです。それを今からご説明いたします。

 はるか昔、新桃太郎伝説が発売される前「ハドソン魔境」というアンソロジーコミックがありました。桃太郎伝説PC原人天外魔境といったハドソンの主力IPをもとにした主に4コマ漫画を中心にしたコミックです。その中に桃太郎シリーズの作者であるさくまあきらや、後にサクラ大戦をつくる広井王子桃鉄のびんぼうがみのモデルとなった榎本一夫らが集まったインタビューが収録されています。(申し訳ないのですが、すでに現物はなく、かなり昔に読んだ記憶を元に記述をしています)
 インタビューの内容は結構開発の現場に踏み込んだもので、ハドソンの社風が「上司に開発の相談しにいったら返事が『やれば?』だった」ですとか「スーパー桃太郎電鉄Ⅱでショック死する人が出るかもしれないから、そのとき新聞で答える内容は考えてある」というものが語られています。その中にこんな記述がありました。
 それはさくまあきら「評論家に腹がたっている」と答えているものです。
 桃太郎シリーズやPC原人はコミカルな雰囲気でゲームに不慣れな子供でもとっつきやすいように調整されています。そのうえでやりごたえがあるように難易度を設定していたはず……なのですが、当時のゲーム評論家に『大人向けではない』と批判されていたことを話していました。そしてその上でさくまあきら「こっちはお子様ランチをつくっているのに、なんでフランス料理じゃないんだって因縁をつけられたようなもの」と語っています。他には桃太郎伝説2の、前述の20人パーティに触れられて『さすがに20人もいると感情移入できない』という評論を見て「やってないなら書くなよ!」と怒った件にも触れています。
 お気づきの方もいるかもしれませんが、ジャンプ放送局「評論家をぶっとばせ!」コーナーが作られたのは、まさしくこういう事情があったからです。さくまあきらは当時の編集員でした。その事にもインタビュー内で触れており「相当な反響があった」と答え、「みんな評論家に対して思うことがあったんだね」、と振り返っています。


 私の想像ですが、結局さくまあきら「評論家をぶっとばせ!」コーナーだけでは溜飲が下がらなかったのではないでしょうか?
 「俺の作っているものはお子様ランチだ!」と言い放った、その上で「俺はフランス料理もつくれるんだぞ!」という反発心。それの結晶が新桃太郎伝説なのではないでしょうか? 新規ipとして新たに大人向けをつくるわけではなく、今まで桃太郎シリーズに触れてきて成長してきた子に対しての大人向けを意識した作品を提供することで、自らの作家性を誇示した……そう思えてならないのです。初代桃太郎伝説ファミコンで発売されたのが87年、新桃太郎伝説の発売が93年です。う○こで喜んでいた小学生低学年が、中学生になるほどの時間がありました。さくまあきらは、その中学生以上の層がこの新桃太郎伝説をストレートに受け止めることができると信じて、イメージチェンジを図ったのではないでしょうか。
 ジャンプ放送局の編集を行い、読者からの意見を吸い上げることに長けていたさくまあきらだからこそ、それを把握することが可能だったのではないのでしょうか。


 新桃太郎伝説の発売から25年が経ちました。作者であるさくまあきらは、2016年に桃太郎電鉄新作をリリースしてから以後、新作の話を出すことはありません。そして今年1月1日に心筋梗塞で緊急入院となりました。現在、退院し無事な姿を見せています。次なる作品は、難しいかもしれません。
 かつて8bit、16bitのゲーム機において子供たちの心を魅了し、そして衝撃を与えたゲームクリエイターさくまあきら。彼が心血注いだ作品である「桃太郎伝説」シリーズを是非プレイしてみてください。

 そしてさくまあきらさんは、お体に気をつけ養生をしてください。私は、あなたが喜びと楽しさと衝撃を与えることに成功した子供の中の一人なのですから。