平和的なブログ

ゲームのことばっかり話してます。たまに映画とか。

人間しか出てこないホラーゲーム -遺作-

 初代バイオハザードをやったとき、振り向いたゾンビのムービーで悲鳴をあげ、窓を破ってきたゾンビ犬でコントローラーを投げつけ二度とやることはなかった。初代サイレントヒルをやったとき、廃病院から過去世界に飛んでそこが刑務所であったことがわかった途端、電源を落とした。
 ホラーゲームは恐怖を得てなんぼのゲームだ。その恐怖の根源とは未知のクリーチャーであったり、幽霊であったり、得体のしれないものだ。
 さて、問題だ。その恐怖の根源が「どこにでもいる用務員のおじさん」であるホラーゲームは成立するだろうか。
 すぐに答えをいってしまうが成立する。それが18禁ホラーエロゲー「遺作」である。


 遺作は1995年にエルフから発売されたゲームだ。
 主人公は高校生で夏休みのある日ラブレターが届き、そのラブレターにより学校の旧校舎に呼び出される。しかしそこにはさまざまな理由で呼び出されたヒロイン6人と、同級生の男子2人がいた。イタズラだと気がついた彼らはさっさと帰ろうとするものの、扉が固くしまっていることに気がつく。取り壊し前の旧校舎には窓も板で打ち付けられており、完全に閉じ込められた状態に追いやられた。嫌な予感が背中を走る。はやくここから脱出しなければならない。さもないと……。


 ゲームシステム的には3Dで構成された旧校舎内を移動し、部屋の中をクリックして探索するもの。探せばアイテムやヒントが見つかり、脱出の糸口が見えていく。ヒロインや男子生徒がいる部屋の中では会話が出来、彼らの過去やここに来た事情の裏を探ることもできる。それらを縫い合わせていくとおぼろげながらも全体像が輪郭をあらわしていく。


 しかし順調にはいかない。ヒロインは唐突に姿を消す。そしてビデオテープが置かれているのだ。それを再生すると映っているのは、学校の用務員である遺作に陵辱されるヒロインの姿だ。

 いままで「何か薄気味悪い用務員」でしかなかった遺作はついに牙をむく。すぐにわかるが、彼らをこの旧校舎に集めたのは遺作だ。そしてヒロインたちを狙ってこの旧校舎に潜んでいる。選択肢を間違えると即遺作はヒロインを浚いそして陵辱する。主人公はそれをなんとかして阻止せねばならない。

 
 謎なのはこの旧校舎、さほど広い構造にはなっていない。なのにどこにも遺作の姿は見つけることはできず、かつ遺作は孤立したヒロインの状況を把握していて即攫うのだ。ヒロインを助ける正規ルートを通っていても遺作は簡単には見つからない。遺作はいったいどこでどうしているのだろうか…。この謎を解かない限りは真エンドを見ることが出来ない

 ゲームシステム的に面白いのが「ハズレを選択するとHシーンが見れる」という構造になっていることだ(とはいってもオッサンである遺作がヒロインを犯すものだが)。これは構造的に後のボンバーガールにも見られるもので(やられると操作キャラの服が破けてしまう)、プレイヤーの謎解きストレスを深刻なものへとさせない作用をもたらしている。

 いくつかのバッドエンドに突入し、それでも適切な選択肢を探し出し、ヒロインを守り、真実へと徐々に近づいたプレイヤーは、次第に遺作の本当の恐ろしさに触れることになるだろう。
 遺作はクリーチャーではない。幽霊でもない。力はある方だが、それでも常人の粋を超えていない。そんな遺作はまさしくホラーゲームに登場する敵として最適なほど恐ろしいキャラクターである


 遺作は人に罪悪感を埋め込ませ、それを左右し誘導する。人を意のままに操ることに長けている。その上、まだ操っていない相手に対しても心理の裏をつくことが得意だ。意表をつき姿を隠し、不意をつく。そして恐ろしく計画的で残忍だ。バッドエンド、旧校舎に閉じ込められた主人公らは身も心も遺作に陵辱されたあと、縛られ火を放たれる。燃え盛る旧校舎、遺作は証拠をすべて消し去り完全犯罪を成り立たせるのだ。
 周回したプレイヤーが謎を解いていくことで、遺作がどのようなトリックを用意してきたのかわかる。登場人物の中の一人が見事に遺作の罠にかかり、それにより誘導させられたことに気がつく。しかしそこまで謎を解いたところで、遺作の罠はまだ残っているのだ。そもそもこの旧校舎に閉じ込められた時点でほとんど遺作は勝利を確定していたも同然なのだから。



 このゲームの素晴らしいところは、遺作があくまで「人間」であることに重きを置いていながらもホラーとして恐怖を掻き立てることに成功していることだ。鬼畜を自称し、完全犯罪を犯し、人の心を操り、陵辱するのも、遺作があくまで醜悪な人間の範囲内で行われることだ。己の欲望のためならば犯罪を犯すことに躊躇がない。最後の最後まで丹念に描かれたその描写に、遺作はある種のダークヒーローのような見方も出来てしまう。人間の倫理観を捨てた人間はかくも恐ろしい存在に昇華することができるのだ。

 このゲームに銃はない。剣もない。霊を封じ込めるカメラもない。他のホラーゲームのような対抗手段が用意されてない。
 遺作はクリーチャーではない。だが恐ろしく機転の効く上、倫理のタガが外れている。そんな相手を倒す手段といえば……そう、こちらも機転を利かすのだ。なんの変哲もない、使い所もないようなアイテムを機転を利かすことにより、遺作はあっけなく首の骨を折って死ぬ。遺作はクリーチャーではないからだ。


 遺作の魔の手から逃れた主人公。しかしヒロインの一人でも遺作の毒牙にかかっていた場合はバッドエンドに進む。
 新学期、悪夢のような夏休みを終えた主人公の机に置かれていたのは、なんと旧校舎に呼び出しをうけたときと同じラブレターだった……。この悪夢から逃れるには、すべてのヒロインを助けなければならないのだ。真エンドを見なければ遺作から開放されたことにはならない。


 そして真エンドはヒロインの二人、どちらかと結ばれる展開となる。その幸せそうなヒロインと主人公の表情にようやくプレイヤーは安堵することができる。死してなお人を苦しめる遺作の悪夢を打ち倒すことができたのだから。


 真エンドを見たあとのプレイヤーは選ぶことができる。このゲームを完全に終了させることか。それとも、まだ遺作に捕まったことがないヒロインのビデオテープを見つけるため、バッドエンドを再度見るか。
 さて、このときのプレイヤーと遺作、どちらが「鬼畜」だろうか? …こういった問題に手を突っ込んだのが、次回作「臭作」である。

 このゲームには人間しか出てこない。そしてそれをプレイするのも人間なのだ。