平和的なブログ

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コナミと野球機構がプロ野球選手会相手に肖像権で裁判した話はどう決着がついたのか

先日、このようなツイートがありました。



このツイートには間違いが多数含まれています。取り急ぎこちらの記事をご覧下さい。



amd-ryzen.hatenadiary.jp


そもそもコナミプロ野球選手全員の肖像権を独占して他社から実名を使った野球ゲームを発売させないようにしようとした」なんてことはないのです。


実はコナミプロ野球選手の実名ライセンス権を取得した際、古田選手を中心とした日本プロ野球選手会との裁判に挑む羽目になりました。

game.watch.impress.co.jp

このことは結構なニュースになりました。おそらく前述の方はそのことが頭の片隅にあったため、あのようなツイートを行ったものと推察できます。
そしてこの裁判どのような結果になったのでしょうか? 


結論から言うと、選手会の完全敗北でした


そのため私は裁判に触れることなく前回の記事をしたためたのですが、いい機会ですので私の調べた範囲内で、コナミ野球機構vs日本プロ野球選手会裁判」の解説をしたいと思います。

まず、問題になったのはどういう点でしょうか? 上記ニュースサイトから抜粋すると

プロ野球選手の肖像権は個々の選手に帰属し、球団側が選手の肖像権を有する根拠として挙げている「統一契約書第16条1項」は、球団側が指示するテレビや映画などの撮影や宣伝利用を規定しているだけで、選手側の承諾なしに商業利用する根拠にはならないと主張している。

とあります。ざっくり要約すると「確かに球団とは契約したけど、名前と顔写真まで自由に使わせるなんて契約してないぞ!」という感じでしょうか。
そしてもう一つ

 選手会が独自に行なった調査では、あるゲーム会社のタイトルが販売可能な状態にあったにも関わらず、独占契約のため長期にわたって販売できなかった事実が明らかになったという。また、契約自体が他ゲーム会社を排除した形で締結された点について、競争入札などの方法を採らず特定の1社のみと交渉したことについて疑問を提示している。

この「あるゲーム会社のタイトル」というのはスクウェア劇空間プロ野球のことですね。この件に関してはそもそもスクウェアが先に大ぽかをやらかしているのですが(参照)、そのあたりはわからなかったのか、それとも都合が悪いのか触れていません(ちなみにスクウェアは次作、日米間プロ野球FINAL LEAGUE では野球機構のライセンスを受けず、選手会のライセンスを受けることで実名選手を使用しています。かわりに実名球団は出てきていません)。また競争入札制度を取っていなかったというのは事実であり、このあたりは野球機構のさじ加減次第というのが選手会としては不満とのことです。



2002年に起きたこの裁判は、2004年にコナミと和解が成立しています。

www.famitsu.com

今後両者は、野球界の発展のために協力し、少年少女の向けの野球教室などを開催していくとのこと。

というなんとも不思議な和解内容なのですが、これには事情があります。

www.ritsumei.ac.jp

コナミ側は、訴訟外で選手会と交渉をしました。コナミとしては、企業イメージを損ないかねないのでこの係争を続けていくのは好ましくないという判断があったようです。またインターネット上でコナミに対する不買運動を呼びかけるという動きもあり、さまざまな判断から交渉をしました。コナミにとっては、誰か正当な権利者から許諾をもらえればそれで十分なわけで、選手会と球団との争いはいわば野球界内部の内紛です。その内紛を自分のところに持ち込まれてもどうしようもないので、よく話しあってもらって決着がつくまで待つという形で和解をしました。その結果、選手会コナミに対する訴えを取り下げました

というわけでコナミ選手会は和解を成立させました。コナミはこの時点ですでにライセンスが期限切れであったため、選手会としても裁判を続ける意味もあまりなかったのかもしれません。コナミとしては正規の手段で正規の契約を行った、と思っていたものの「実は選手の総意が取れていませんでした」という現状に驚いたのでしょう。独占ライセンス契約を延長しないという判断を下すのも当然です。

しかし再び行った選手会野球機構の話し合いは上手くいきませんでした。そのため第二次訴訟が起こります。コナミ抜きで野球機構選手会が裁判でぶつかり合うこととなりました。



その結果は選手会の全敗でした。地裁で負け、高裁でも選手会の控訴を棄却し、最高裁は上告を退けています。



www.nikkei.com




高裁での資料が公開されていますので、その一部を抜粋してご紹介します。




https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/891/035891_hanrei.pdf



加えて控訴人らは,本件契約条項の「球団が指示する場合」については具体的な指示を要するところ,野球カード,ゲームソフトについての肖像等の使用についてはこれら具体的な指示を欠くから該当しないと主張する。しかし,既に検討したとおり,本件契約条項には「球団が指示する場合,選手は写真,映画,テレビジョンに撮影されることを承諾する。」とされており,球団の指示は「写真,映画,テレビジョン撮影」に必要とされるものである。そして,野球選手は野球の試合を行うことを活動の本旨としており(統一契約書様式第4条参照),そのテレビジョン撮影がされるのは当然の前提となっているところ,そこで撮影された映像は当然に「球団が指示する場合」に含まれるというべきである。また写真についても,上記で認定のとおり,球団の指示により撮影されているものと認められるから,控訴人らの上記主張は採用することができない

ざっくりいうと選手会の主張は、野球カードと野球ゲームに関しての肖像権は契約外というが、契約書を見る限りその主張は通らない」という具合です。
選手会「球団側が指示するテレビや映画などの撮影や宣伝利用を規定しているだけで、選手側の承諾なしに商業利用する根拠にはならない」という主張が否定されてしまいました。


その他においても野球機構と選手らと契約は、肖像権についての分配が行われていたり、長い歴史のなかで何度も契約に調整がなされ更新が行われてきたという点が評価されました。そうして球団と選手が結ぶ「統一契約書」は肖像権まで含めた契約と見なしてよし、というお墨付きが最高裁から出たということになります。

もう一つ抜粋します。


さらに控訴人らは,球団が肖像権を管理すべき合理性はないとして原判決を論難する。しかし,選手が商業的利用も含め自らの肖像権を生来的に有することは所論のとおりであるが,これを自らの判断で契約により球団等の第三者にその管理を委ねることも許されるのであり,本件は,前記のとおり,そのような意味における肖像権が選手から球団に対し契約により独占的利用を許諾したと認めることができるのである。そして,選手の肖像ないし氏名の宣伝目的での使用を球団が一括管理することを前提とした本件契約条項の内容が,それ自体として不合理といえないことも前記のとおりである。したがって,控訴人らの主張は採用することができない

資料後半部はこんな具合に「控訴人(選手会)らの主張は採用することができない」がずらっと並んでいるのを見ることになります。選手会の主張は、結局何一つ通ることはありませんでした。「なぜ競争入札をしなかったのか」という疑問に対しても「それを含めて野球機構が一括管理するのは別に不合理ではない」と言われてしまいました。

ただしこの裁判を行った結果、野球機構が選手らに対しての態度を改善させはじめていった……というのは、ない話ではありません。




jpbpa.net




 肖像権訴訟を提起する以前であれば、選手のCM出演に関して、球団が選手が若いからという理由だけで一方的に認めなかったケースなどがありましたが、今後は、合理的な理由がない限り拒否できないこととなり、選手が望む肖像権利用が実現していくものと思われます。
 また、肖像権訴訟を提起する以前は、球団が選手の意向を無視して一方的に選手の肖像権を利用した商品を作るなどのケースもありましたが、現在では、球団も選手の意向を踏まえた商品化を行うことが広まっています。

 この意味では、肖像権訴訟を提起したことにより、選手の肖像権に対する球団の理解、配慮が強まったことは事実で、肖像権訴訟を提起したことに一定の意義があったと考えています。


このように選手会側にとって状況は改善方向にあるようです。

この記事の結論としては以下のようになります。




1.コナミはそもそも実名ライセンスを独占使用していない


2.選手会は裁判を起こしたが、その主張は結局すべて通らなかった


3.裁判を通じて選手会野球機構は歩み寄りを始めたが、そもそもこれらは内紛であってコナミは無関係のとばっちり


前回の記事の締めもそうでしたが、今はもう令和の世の中です。「悪のコナミがあくどいことをしようとして、正義のヒーローが阻止した」というストーリーは面白くはありますが、事実ではありません。
ですからコナミは名誉回復がなされていい頃かと思います。


伊集院光がラジオのコーナーで「上上下下訴訟権利訴訟権利BA」という至極のネタを披露したのは20年以上前になります。



もうそろそろ、認識を改めてみませんか?