平和的なブログ

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「コナミはプロ野球の実名ライセンスを独占していた」という風説についての所見と解説

2000年、コナミのイメージを最悪に突き落とした事件がいくつもあります。

一つは「ジャレコ VJ」に端を発した音ゲー特許事件。もう一つは他社の商標を奪い取る商標登録問題。そしてもう一つ、野球機構からライセンスを受け野球ゲームに実名選手と実名球団を出せるようにしたのですが、これをコナミは独占しました。

他社はコナミにサブライセンス申請を出さないといけなくなりました。そして実際にコナミスクウェアにサブライセンスを許可しない方針と発表したため、ゲーム業界は荒れに荒れました。

この荒れ具合はBoycottKONAMIさんのページを見ればわかるかと思います。(2021年時点でもまだページが現存し、かつ目的を達成したことで活動を停止したBoycottKONAMIさんに敬意を表します。重要な参考資料として使わせていただきます)


このうちの音ゲー特許事件は翌年にナムコジャレコと和解が成立。商標登録問題もそもそもあくどいことをしたくてやったわけではない、という事情があるのですが、この野球機構のライセンスに関してはいまいちよくわからないまま2003年のライセンス独占契約期間満期終了を迎えてしまい、そのままその後の公正取引委員会による警告」を受け、「なんだかよくわからないけれどコナミがあくどいことをしていたから怒られたんだ」的な解釈がなされています。事実私もそう思っていました。おそらく多数の方がそう思っているかと思います。



今回はこのライセンス問題について私が理解できた範囲内で解説を行います。参考資料は再び国会図書館から送って貰った、東京大学法学部研究拠点形成特任研究員 大久保直樹氏によるコナミに対する公正取引委員会の警告等について -単独ライセンス拒絶の事例研究-」です。


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まず言っておかなければならないのは コナミは実名ライセンスを独り占めしてはいません。ぴんと来ない方も多いかと思いますが、コナミは2000年4月、野球機構と契約を有効化してから他社と交渉を続けており、サブライセンスを各社に許可しています。8月時点ですでに7社と契約をし、以降5社とも交渉を続けている状況だとのことです。つまり、コナミは他社にバンバンサブライセンスを許可していたことになります。


これはある意味当然なことで、そもそもコナミ野球機構とこのような契約に至った背景には、コナミが相当量なスポンサー料を野球機構へ渡したからであり、その回収としてサブライセンス料は可能な限り欲しいわけですね。そのサブライセンス料をどう調節するかはコナミにある程度の裁量が任されていたと推察できますが、コナミと裁判で殴り合っていたナムコがサブライセンスを受け熱チュー!プロ野球2002を発売できたことを見ると、おそろしくぼったくっていたわけではない……のかな? と思えます。自社音ゲーは自社以外のゲーセンに置かない、という方針で対立する羽目になったセガにもサブライセンスを与えているのを見ると、「それはそれ、これはこれ」な懐事情が透けて見えます。


ところがスクウェアに対しては明らかにコナミは後ろ向きでした。アサヒ芸能の取材において「当社は、その権利を侵害している企業に対してのサブライセンス対応に大変苦慮しています」と牽制しているほどです。結局スクウェアコナミと契約でき、無事ソフトを発売することができたんですが……その発売は2000年9月。しかもデータは昨年の1999年のまま、という有様でした。コナミとの交渉がスムースに行われていたらもう少しマシな状況だったのでは? と思わざるを得ません。


そしてこの三年後、公正取引委員会がこの一連の流れを調査し、コナミ側に警告。野球機構側に注意を行いました。「他社にはサブライセンスすることになっていたのにも関わらず、特定のゲームメーカーの新製品の発売を遅延させる疑いのある行為を取った」というものです。明らかにスクウェアの件を指しています。


この警告というのは程度としてどのような具合でしょうか? 公正取引委員会のサイトを確認する「排除措置命令等の法的措置を採るに足る証拠が得られなかった場合であっても,違反するおそれがある行為があるときは,関係事業者等に対して「警告」を行い,その行為を取りやめること等を指示しています。」とありますので、法的措置を採るに至るほどの証拠があったわけではなく、「それは違反する可能性があるからやめような」というものだったのですね。


では具体的に、どの点が独占禁止法に触れるおそれがあるのか調べてみましょう。大久保直樹氏によると、「他社メーカーがコナミ野球機構からライセンスをもらえない状況」になった場合、独占禁止法「代替的競争手段の不存在」という要因を満たしてしまうといいます。代替的競争手段の不存在とは、この場合「コナミからライセンスがもらえないと実名選手や実在球団を扱うことができない」という状況ですね。
野球機構は12球団からライセンスの認可を受け、今まで複数他社にライセンス付与を行っていました。それをコナミ一社に絞り、他社はコナミからサブライセンスを認可してもらうように交渉を打ち切ってしまいました。コナミがそのままサブライセンスを許可していれば問題なかったわけですが、そこで交渉打ち切りとなると、他社はどうすることもできない。その状況が独占禁止法にあてはまるということになります。(各12球団に個別にライセンスを取りに行くという方法もあるかもしれないが、現実的ではないだろうと大久保直樹氏は解説されています)


こうしてみるとなるほど、公正取引委員会が警告を行ったのも納得がいきます。(警告がなされた時点ですでにコナミ野球機構の間のライセンスは終了していたのですが)


さて、もう一つ疑問符がつきます。セガナムコというライバルに対してサブライセンスを付与するほどだったコナミが、なぜスクウェアに対しては非常に冷たい態度をとり続けていたのでしょうか? 


それを解説するに「経済会 2000年7月号」の、上月景正社長(当時)のインタビューを紹介いたします。当時、各方面からスクウェア新作プロ野球ゲーム発売できず!? コナミスクウェアいじめ!」みたいな記事が盛り上がり、「もうゲームはできているのに発売できない」というスクウェア側の言い分が載っていてコナミバッシングに使われました。それに対するカウンターパンチとして上月景正社長(当時)自らインタビューに答えたものです(なお、上月景正氏がインタビューに答える、というのは恐ろしく貴重です。この方はほとんど表にでてきません。今回の記事も「ソフト業界の健全な発展のためにも、個別企業の利害関係を明かすべきではない」という考えでしたが、「あまりに経過を省いた報道に疑問を感じ」インタビューに答えたとのことです)。
そこにはこのような内容が記されていました。


当初、1999年夏にスクウェア社長武市氏(2000年には会長)がコナミを訪れ、野球ゲームをつくりたいから来年コナミが取得するはずの野球の実名ライセンスを貸して欲しいという申し出を受けました。これには上月社長も乗る気であり「それならばかわりにスクウェアさんが有しているサッカー選手の権利(FIFA関連)を譲っていただけませんか?」と提示しました。当時コナミが出していたウイニングイレブンは偽名選手だったのです。
ところがスクウェア側の返事はノー。『権利を有しているのはEAと合弁でつくったEAスクウェアなので、日本側だけでは決められない』という返事でした。当時スクウェアはEAと提携し、アメリカにEAスクウェア、日本にスクウェアEAという合弁会社を各自つくりました。ところがそのアメリカ側のEAスクウェアの株主は30%がスクウェアであり、その役員の中には当の武市氏も入っていたのに、です。


スクウェアが強硬な視線を崩さなかったため、結局コナミはサッカーのライセンスを諦め、改めて野球ゲームのサブライセンスの交渉に就こうとします。ところが打診をしたのにスクウェアは実際の契約行為に至らない。そうしている間に年があけ、2月にはなんとそのまま「劇空間プロ野球が発表されてしまったのです。これに上月社長は野球機構に問い合わせしたそうですが、その返事はコナミとの契約期間は4月以降からなのでそれ以前に発売されるのならやむを得ない」というものでした。これ自体はまっとうな話であるため、コナミ側としてもいったんは引き下がったものの、あろうことかスクウェアは発売延期をしてしまい、4月以降の発売となってしまったのです。


東京ゲームショーにもこの劇空間プロ野球は出展され「近日発売」と銘打っているので、さすがにコナミ側としては看過できずスクウェアに問い合わせをするのですが、その返事は「特許(原文ママ)は侵害していない」の一点張りだったとのこと。その上テレビなどで宣伝を始め、あろうことかNPBライセンス認証済み」とまでうたってしまったのです。その一方で先のサッカーゲームは権利がアメリカ側にあるはずが、スクウェア流通を活用して堂々とスクウェア本体が身を乗り出して手がけているという状況。さすがに「話が違う」と上月社長はスクウェア側と議論の場を設けましたが、結局納得するような答えは返ってこなかったとのことです。


最終的にスクウェア野球機構にライセンスの無断使用を謝罪。一度経緯を白紙に戻し(戻せるような交渉があったようにも見えませんが)改めてコナミと交渉を行った……という一連の流れだったのです。



上月社長の語っていることがすべて本当であるか、というのはわかりません(劇空間プロ野球の発表が2月……というのはちょっと疑問符がつきますが、それに反するソースも見当たりません。ファミ通1999年-2000年を所持している方ならわかるかしら?)。ですがナムコセガに対してサブライセンスを順当に認めていること、スクウェアが先走ってライセンスを取得したと言ってしまったこと自体は本当であるため、概ね信頼性あり、と見なして支障ないかとおもいます。

こうした経緯があるためスクウェアにサブライセンスを渡すのはどうか?」コナミ側が思案し、その結果まさしく独占禁止法に引っかかる「代替的競争手段の不存在」となってしまったわけですね。


また、コナミ公正取引委員会に反論をしています。公正取引委員会が言った「他社にサブライセンスをするようになっていた」という文言は契約文言には存在せず、公正取引委員会独自の解釈である、として批判しています。(2003年4月25日付けコナミ社プレスリリースとして出されていますが、さすがに現在は消されて見えなくなっています)
つまり場合によっては野球機構からサブライセンスを行わなくてもよい、と暗に言われていたんだ、と主張していることになりますが、私見ながらこの批判は意味がないかと思われます。「代替的競争手段の不存在」が成立してしまう以上、コナミはどうやってもサブライセンスを行わなければならないはずであり、この公正取引委員会の見解は関係なしとなります。

しかしコナミがそう主張しているということは、実際の野球機構との契約の中でも概ねそのような説明を受けてきたと思われます。……と、なると、おそらく野球機構自身、ライセンスを与えない行為が独占禁止法に引っかかるかどうかを把握していなかった可能性があります。

現に公正取引委員会から野球機構も注意を受けています。コナミが順当にサブライセンスを認可するようチェックする義務があるはずなのに、それを怠った」という理由です。

野球機構がいまいち独占禁止法を理解しないままライセンスをコナミに貸し、コナミもまた完全に理解している状態ではないまま、スクウェアという特大のやらかしに巻き込まれたことで、そのまま無知で地雷を踏み抜いてしまった……。この事例はこういうことなのではないでしょうか。


そしてもう一つ謎が残ります。なぜスクウェアはライセンス違反のまま発売を強行しようとしたのか、ですが、それに対する資料が見つかりません。それとEAから受けたサッカーのライセンスを結局コナミに譲らないまま終わるのですが、これが独占禁止法に当たらなかった理由はわかりません。海外でのライセンスは事情が違う、ということなのでしょうか。


こうした事情を踏まえてまとめると以下のようになります。



コナミ公正取引委員会から警告を受けたが、それは「ライセンスを独占していたから」ではない


コナミスクウェアにライセンスを出すことを渋ったのは主にスクウェア側に理由があるが、それでもそれは独占禁止法的に問題のある行為だった


・ライセンスを独占していたのはむしろスクウェア側だが、公正取引委員会は動いていない



コナミスクウェアの双方のやらかしについては「ゲーム業界全体がまだ未成熟だったから」というのもあるかもしれません。上月社長は経済会のインタビューの最後にて「ゲーム業界といえども国際ルール、国際基準に見合った肖像権ビジネスをしなければなりません」と語っています。スクウェアの態度によほど怒っていたのでしょうが、その対応が独占禁止法に引っかかるというのはまさしく皮肉です。


今令和の世になってどうかと見てみると、漠然とコナミが悪いことをした」というイメージが残り、それを拭い切れたとはいえません。
しかし綿密に精査してみると、単純にコナミがやらかしたとは言い切れず、相応の事情があったことがわかります。あれから20年近くたちました。そろそろ見直されてもいい頃だと思います。PS2が初登場した2000年の頃のイメージは、PS5が登場している2021年にはいささか古いのではないでしょうか。この記事がそのイメージの更新に繋がればと祈ります。


ここでこの記事は終わります。お疲れ様でした。