平和的なブログ

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打倒アクトレイザー! SFC音源に立ち向かった者たち

まえがき

 以前、このようなツイートがありました。

 かの古代祐三氏はSFC初期の名作、アクトレイザーの音楽を担当したことでも有名です。そのアクトレイザーの衝撃は凄まじく、当時ファイナルファンタジーシリーズの音楽を担当し、業界内で高い地位を築いていた植松伸夫氏ですら「あれは業界内で事件だった」「当時では勝てなかった」と語るほどです。

 そんなアクトレイザーはどれほど音楽が優れていたのか、実際に聞いて比較してみましょう。まずはスーパーファミコンのロンチタイトルであるマリオワールドをお聞きください。

 
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 ファミコンとは段違いの音質・音源なのですが、今聞くとどことなく柔らかすぎる音楽のようにも思えます。

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 その発売の一週間後に発売されたサードパーティ製初のゲームソフト、ボンバザルではこのような音源です。マリオワールドのような柔らかい音を使い上手い具合にメロディを流しているのがわかります。ファミコン時代は使える音数も少なく、音質もさほど幅がなかったため、メロディラインで勝負をかけるという作風が広くとられましたが、上記二作はそのような流れを受け継いてるように感じられます。

 そしてその直後発売された、アクトレイザーの音源を実際にお聞きください。

 
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 今までのファミコンの延長線上にあるものではなく、全く新しいオーケストラ調で広がる音が繰り広げられるのがわかるかと思います。古代祐三氏もねとらぼのインタビューにて「音源のプログラミングに関しては当初からかなり高度なことをやっていましたので、音響的な面でこの迫力を超えられるものは数年は現れないだろう、と思っていましたね(笑)」「それまでFM音源ばかりやっていましたので、それでは実現が難しい、生々しいストリングスやドラムセットの音が鳴らせたときはとても興奮しました。当時のゲーム音楽の最先端であった、アーケードゲームでもここまでのスペックの音源は無かったかと思います」などと、自分の腕前を誇ると同時に、SFC音源のスペックの高さを褒め称えています。(余談になりますが、このSFC音源SPC700の開発者はかのプレイステーションの父、久夛良木健氏であり、PS1、PS2にはこのSFC音源の後継機が搭載されています)

 非常にハイスペックであるこの音源は、しかしながら「扱うのが難しい」という難点がありました。アクトレイザーはその成功例として有名ですが、では、失敗してしまった場合はどんな音になるのでしょうか? スーパーファミコン発売から半年たった頃に発売されたこのソフトの音楽をお聞きください。
 
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 イースⅢは他機種にて広く展開し、音楽に特に定評のあるタイトルです。ですがスーパーファミコン版はその音の力の抜け方に、逆の評価がついてしまったのです。なおファミコン版の同じ曲はこのような具合です。聴き比べていただくと、如何にSFC音源の扱いが難しかったか、想像できるかもしれません。

 そんな暴れ馬のようなスペックのSFC音源が、四年後鳴らした音色。光田康典氏がクロノトリガーで鳴らした音楽はアクトレイザーのそれをついに上回りました。

 
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 音の透明感と臨場感は、聞き飽きることも色褪せることもさせません。古代祐三氏が白旗を上げるのも無理はないでしょう。4年という月日でついにトップが入れ替わったのです。


 ……のですが、はたしてこの4年の間、他の作曲家は黙ってみていたのでしょうか? いえ、違います。彼らは己の力を振り絞り、全力でSFC音源へと立ち向かい、打倒アクトレイザーに燃えていたのです。
 今回の企画は、アクトレイザークロノトリガーの間で発売された、良質なサウンドを実装したスーパーファミコンソフトを紹介していくものです。それでは早速参りましょう!

カプコン

 
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 トップバッターはカプコンロックマンXです。「そっちがオーケストラならこっちはロックじゃ!」と言わんばかりの力強い音色をバリバリと奏でてくれています。
 このロックマンX、作曲陣は入社1-2年目の新人を中心に集めており、このオープニングステージの作曲者である山本節生氏は(このロックマンXの中の曲の半分を作曲担当)現在もカプコンに在籍しておられますが、作曲はせずにサウンドマネージャーとしてマネジメントを中心に行っているとのこと。
 ロックマンXについてはこのインタビューでいろいろと語っておられるのですが、ロックについての思い入れをガンガンと語って下さっています。(なお、関係ないですが当時のカプコンでは先輩がガンガンやめていき三年目で中堅になったという世知辛い状況になったことについても語っています)

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 カプコンといえばSFC時代、ストリートファイター2で大いに盛り上がった会社です。アーケードで発売されたスト2を、SFC上でほぼ完全再現したことで大ヒットを飛ばしました。音楽についてもほぼ同じ音を再現できております。
 なお、ストリートファイター2のメイン作曲者下村陽子氏がカプコンに在籍されていたのは93年までになります。その後、スクウェア(現スクウェア・エニックス)に移籍することになりますが、そこで彼女は……。

 

スクウェア

 
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 名作ライブ・ア・ライブの作曲を担当することになりました。光田康典氏以外の作曲家も存分に力を発揮できるスクウェアの自力の強さを伺えしれます。
 そんなスクウェア作品の中でもう一つ注目したいソフトがあります。

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 作曲者はすぎやまこういち。そう、ドラゴンクエストの作曲者であるすぎやまこういち氏は合併前のスクウェアでも作曲担当をしていたのです。……というか、この半熟英雄 ああっ、世界よ半熟なれ」は、すぎやまこういち氏が企画をスクウェアに持ち込んだことからスタートしたという逸話があるのです。ファミコン半熟英雄にハマったすぎやまこういち氏がスクウェアに続編を作ってくれ、と頼んだという。ドラゴンクエストの作曲担当も、もともと「森田和郎の将棋」のアンケートハガキをすぎやまこういち氏がエニックス社に出したことを発端としているので……どんだけゲームやってるんでしょうか、この方。
 ちなみに作曲者はすぎやまこういち氏ですが、サウンドプログラマーはなんと光田康典氏なのです。1992年の時点でその才能の片鱗を見せつけていたのでした。(もともと作曲志望で入社したのに作曲させてもらえない状態だったそうな)

 

富樫則彦編

 古代祐三すぎやまこういちといった方々はこのときにすでに知名度を有していました。下村陽子光田康典といった作曲家はこの時点から有名になりつつありました。彼らに対する知名度には一歩劣りますが、それでもこの時代から根強いファンがいた作曲家に富樫則彦氏がいます。
 
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 機動戦士ガンダムF91 フォーミュラー戦記0122」アクトレイザーから半年後、1991年7月に発売されたソフトです。力強いドラムとキラキラしたメロディが印象的で、ゲームとしての評価はそれほどでもないですが、音楽的な評価は反対に高評価を受けています。

 
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 発売元が違いますが、このサンドラの大冒険は翌年の1992年、ガンダムF91フォーミュラー戦記0122と同じ開発会社ノバがつくりあげ、富樫氏がサウンドを担当したものです。ガンダムではまだ若干音数の少なさが気になるのですが、さすがに一年間という時間を与えられたあとは完成度を急激にあげてきたのがわかります。

 富樫氏は現在「nori」名義でJ-POPユニット「nj」を結成し、今も活動を続けています。公式サイトから飛べるページで視聴も可能なので是非聞いてみてください。


禎清宏編

 
 現代でも第一線で働いていて、かつ当時でも最前線にいた作曲家をもうひとりあげましょう。禎清宏氏はファミコン時代はコナミに所属し、ファミコン魂斗羅のBGM担当をしていた作曲家ですが、SFC時代はナツメに移籍し音楽を担当しています。

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 「反省ザル ジローくんの大冒険」はその気の抜けたタイトル(当時人気者だった猿のジローくんを主人公にしたパズル色強めのアクションゲームです)とは裏腹に、非常にスタイリッシュな音楽が評価されています。1991年の発売ですが、その後1993年に禎氏は独立、音楽作成専門会社「ピュアサウンドを設立し、他社からの音楽制作依頼を請け負っています。

www.puresound-net.co.jp

 今ではサモンナイト6」「幻影異聞録♯FE」「メタルマックス4といった有名コンシューマゲームの音楽に携わっています。なお、サウンドギャラリーにてサンプル曲を聞くことができますので、是非皆さん耳を通してみてください。


多和田吏編

 もうひとりピックアップしたい作曲家がいます。多和田吏氏はかつてジャレコに所属し、そのジャレコから独立したヘクトに移籍した作曲家です。ダンジョンマスターSFC版)、じゃじゃ丸の大冒険といった作品のサウンドを担当しておりましたが、93年に発売された「イーハトーヴォ物語」が彼の評価を急上昇させました。

 
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 その結果、なんとすぎやまこういち氏に才能を見出されドラゴンクエストシリーズサウンドデザインを担当し、ドラゴンクエスト6サウンドドライバ作成に携わることになったのです。その後は任天堂のセカンド会社ジニアス・ソノリティの設立に携わり、取締役に就任(2007年退任)。ポケモンコロシアムシリーズに携わることになったりと広く活動し、いまでもフリーとして活動しつづけている作曲家です。
 

崎元仁

 またこの時代にすでに活躍していた作曲家といえば、崎元仁氏も忘れてはならないでしょう。

 
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 伝説のオウガバトルは複数の作曲家との共同作品なのですが、この有名な「サンダー・おおえど・Aチームのマーチ」(いったいどういう曲名なんだ)崎元仁氏作曲です。
 また変わったところでは、版権モノのゲームである「スーパー・バック・トゥ・ザ・フューチャー2」の作曲を担当しています。

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 特徴的なバック・トゥ・ザ・フューチャーのあのテーマを見事にSFC音源に落とし込んでBGMに仕立てることに成功しています。この時期の崎元仁氏はフリーの作曲家として広く活動し、ドラゴンクエスト6やリメイク版3の編曲にも携わっていましたが、オウガバトルスタッフがスクウェアに移籍したことをきっかけにファイナルファンタジータクティクスに携わり、さらにはファイナルファンタジーⅫの作曲すべてを担当するにまで至り、つまりドラゴンクエストシリーズファイナルファンタジーシリーズの両方に関わった作曲家ということになります。
 現在ではアニメ音楽も手がける一流の作曲家として名高い地位に到達しています。



任天堂

 さて、ここで焦点を任天堂に戻しましょう。ロンチタイトルのマリオワールド以後、任天堂もいろいろなアプローチをSFC音源に仕掛けています。

 
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 有名所ではマザー2において(開発はHAL研究所であり、音楽もマザー1から引き続いて前作スタッフが作っていますが)、サンプリング音源を多用することで本来の性能を超えた音楽を再生することに成功しています。多様しすぎたその結果、総容量の三分の一が音源という状態だそうな。

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 またレア社が開発した「スーパードンキーコング」はその驚異的なグラフィックも評判になりましたが、同時にBGMも完成度の高さから当時から話題になっていました。
 これらは任天堂自身ではなく、あくまで関連会社のHAL研究所レア社が手掛けたものです。任天堂自身がつくった作品はマリオワールド他にスーパーメトロイドスターフォックスなどがあげられます。それらはその作品の世界観にあわせた独特な音源を作ることで作品の雰囲気を盛り上げることに成功しています。

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コナミ

 「世界観に合わせて音楽を作る」ということにおいて当時から比類ないレベルの高みに登っていたメーカーがあります。コナミです。後に音ゲーBEMANIブランドを展開することになるコナミは、すでにこの時から評価を確立していました。ファミコン時代ではゲームカセットの自社生産を許可されていたため、拡張音源を載せたりと好き放題にしていたコナミですが、SFCでもその力を存分に奮っています。

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 この「魍魎戦記MADARA2」はいわゆる「異世界へ迷い込んだ現代の少年の物語」なのですが、その異世界の世界観と、この民族音楽風BGMががっちりと組み合っていて浸れるようになっています。というか、当時このBGMをずっとテレビからかけ流しにして聞いていました。他にも名曲ぞろいでピックアップするのに悩みに悩んだので、他の曲も是非聞いてみてください。

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 その方向性とは真逆に突っ走ったソフトに魂斗羅スピリッツがあります。汗と弾丸で構成される暑苦しい画面、群がるエイリアン共を筋肉ムキムキの主人公たちがバリバリとマシンガンで吹き飛ばすゲームは、ノリのいいBGMでテンションをガンガンに上げにきます。このBGMが流れるステージでは主人公が無数に飛び交うミサイルの間を飛び回りながら超巨大航空戦艦をぶちのめしにいきます

ティム・フォリン編

 今までずっと国内メーカー・国内の作曲家を紹介して参りました。最後にここで海外からの最強の刺客を紹介しましょう。ティム・フォリン。15才でデビューしたという海外の作曲家は、NES「シルバーサーファー」のBGMを担当したことで知られています。8bitの限界を突破した音楽の手腕はSFCでも健在です。

 
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 ハーモニカの音色がハーモニカ!! この「PLOK!」というゲームはアクティビジョンから発売されたのですが、当時のアクティビジョンは日本国内では無名もいいところでした。「よくわからない海外のゲーム」という枠に収まってしまい、評価はされていなかった覚えがあります。なにせこのゲームの特集を読んだことがあるはずの私ですら「記憶にないことが記憶に残っている」という状態です。(ファミリーコンピューターマガジンで紹介されていたような…)当時、プレイしていないゲームのBGMを聞くのはほとんど不可能でした。私は紹介するゲームの中でこの作品だけはリアルタイムでプレイしたことがありません。その上プレイした話題ですら触れたことがないレベルですが、ネットの興隆とともに評価されてきた作品と思います。

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 その一方でリアルタイムでも日本で評価されたタイトルを一つあげられます。この「ロックンロールレーシング」ナムコから発売され、そこそこの知名度を持っていました。私も知人が持っていたので、当時プレイしたことがあります。聞き覚えのある音楽がアレンジ込みでスーパーファミコンから流れてきたことに驚きをうけました。当時すでにCD-ROM媒体による生演奏収録を実現したPCエンジンCD-ROM2が存在しましたが、それでも衝撃を広げることに成功しました。今もなお語り草になるほど、高評価タイトルです。なおゲーム自体もマリオカートを別方向に進化させたようなはちゃめちゃレースゲームで(ミサイルや地雷で敵車を粉砕できる)、とっても楽しいですよ。

おわりに

 アクトレイザーは音楽面で比類なき評価を受けた作品であり、クロノ・トリガーはそれを超えたと称されていい作品です。しかし、他にもいろんな作品がスーパーファミコンというプラットフォームにはありました。それらは今の時点で評価されているものもあれば、見逃されているものもあります。一度立ち止まっていろんな作品の音楽に触れてみてください。そこには、強敵に立ち向かいながらもどんな音を出そうか苦心した作曲家たちの血と汗が染み込んでいるのです。以上をもって、SFC音源に立ち向かった作品の紹介を終わります。皆様ここまで、お疲れ様でした。