平和的なブログ

ゲームのことばっかり話してます。たまに映画とか。

特別編 商標は誰のもの? ゲーム業界の商標権抗争を探る!

「ゲーム業界において商標登録で問題を起こした企業と言えば?」と質問されれば、百人中百人が声をそろえてコナミ!」というでしょう。


2000年頃、コナミジャレコナムコ相手に血で血を洗う特許裁判をしている脇で、コナミ「商標登録問題」も巻き起こしていました。
商標とはざっくりというなれば「他社のものと自社のものを区別するための目印」であり、それを国に対して申請して「この製品名は間違いなく貴方のものです」と認定してもらうことを商標登録といいます。コーヒー店は山のようにありますがスターバックスコーヒーは一社のみであり、無断でスターバックスと名乗る喫茶店が現れると、ものすごく怒られることになります。ちなみにコナミはこなみ珈琲の商標を「うちのパクリだから無効だ!」と訴えたことがありますが、裁判所に「あんた珈琲やってないでしょ。ロゴも違うし顧客が混同するわけがない。無関係」と却下されています。


そんなコナミが起こした商標登録問題とは、「他社の製品を片っ端から登録申請して自社の商標としてしまった」というとんでもない代物です。詳しくはBoycottKONAMIさんのページが詳しいのですが「デジタルコロコロコミック」「パトレイバー」「ロックントレッドといった商標が一時期コナミの商標として登録されていたのです。これにより当時の一般的なゲーマーどころか、音ゲーコナミを支持していたコナミファンすら声をあげ、コナミを批判した動きがあったのです。コナミbeatmaniaの特許を侵害しているとして訴えていたジャレコは、この商標問題のおかげでロックントレッドの続編を「ロックンスリー」にしなくてはいけないという事態も起きたのです。
この数ヶ月後、コナミ自身の手により登録後本権利抹消(実質的な権利放棄)がなされ問題は解決に向かいました。が、当時のゲーマーの心証を深く傷つけ、コナミのイメージを最悪に持って行った事件であります。今でもこのことを忘れないゲーマーは多いでしょう。


ところで「なぜこんな暴挙をコナミが行ったのか?」という疑問なのですが、「当時コナミはとにかく商標を取ることを目的にしていたため商標をとれた社員にボーナス5万円を支給していたものの、内部的な監査がまるでなされてなくて、他社製品だろうか無関係にとれそうな商標を片っ端から社員がどんどん取っていって、最終的に他社から怒られて全部権利放棄」というなんとも情けない答え合わせがなされていました。結局コナミは取った商標で何かしようとしたわけではなかったのです。


さて、実は今回の記事はコナミの商標登録問題の話ではありません。もし、本当に、他社の登録商標を横からかっさらい、自社のものだと振り回して裁判にまで持って行った会社がいたとしたらどうなるのでしょうか? 実はいたんです。このコナミの商標登録事件があったのと同時期に。


今回の記事の主人公たち、それは株式会社日本シスコン(現シスコン)、株式会社テクノブレイン、そして株式会社タムです。この三社が裁判に挑むことになったのは「ぼくは航空管制官というゲームに絡んでです。




まず「ぼくは航空管制官」について解説いたしましょう。このゲーム、元はテクノブレインが作り出したPC用ゲームでジャンルは「航空管制シミュレーション」です。その名の通り航空管制官となって、空港で離着陸する飛行機に指示を飛ばすシミュレーションです。

www.technobrain.com

www.youtube.com




1998年にWindows用ゲームとして発売され、人気作となりコンシューマ移植の話もあがりました。テクノブレインはPC向け一本でやってきた会社らしく、コンシューマに関してのノウハウがありませんでした(かわりに航空業界向けの訓練シミュレータなんかも手がけているらしく、かなりハイレベルな会社です)。そのため他社にライセンスを貸すことでより広く「ぼく管」を売り出そうとしました。当時トップシェアだったPS1向けにこの「ぼく管」を移植担当したのがシスコン社です。シスコン社はなんとあの初代「グランドセフトオート」のPS1移植を担当した会社であり(といっても初代GTAは今のような完全オープンワールドではない、車泥棒したりして依頼をこなすギャングゲームであったのですが……)、見事にぼく管の移植を果たし1999年にPS1版を発売しました。売り上げも大ヒット、とまではいかないものも毎月リピートがかかるくらい好調であったようです。


話がおかしくなるのは2000年です。今度は当時登場したばかりのゲームボーイアドバンス向けにこの「ぼく管」を移植する話が出ました。テクノブレインは当初再度シスコン社にこのゲームボーイアドバンス向け「ぼく管」を移植願いを出したようなのですが、断られ、別の会社を探します。そこで株式会社タムと契約を交わし、ゲームボーイアドバンス向けの「ぼく管」のライセンスを貸付しました。すると、どういうことでしょうか。シスコン社が抗議を始めました。「コンシューマ向け「ぼく管」は我が社のものであり、タム社が発売する「ぼく管」は商標違反であるため、損害賠償を支払え」と言い出したのです。なんと、「ぼくは航空管制官」の家庭用ゲーム機向け商標をシスコン社は押さえていたのです!

ここで少し補足をいれますと、商標にはジャンル分けが存在します。先の「こなみ珈琲」は喫茶店であるがためコナミの訴えから身を守ることができました。これがもし「こなみスポーツクラブ」でしたら、スポーツクラブをやっているコナミに負けていたことでしょう。
実は「PC向けソフトウェア」と「コンシューマ向けゲームソフト」とでは商標のジャンルが違います。テクノブレインは「電子応用機械器具及びその部品」として申請しており、「家庭庭用テレビゲームおもちゃ」の範囲では商標を取っていません。そのためシスコン社が「家庭庭用テレビゲームおもちゃ」として「ぼくは航空管制官」の商標を取ることができたのです。これを元にしてシスコン社はタム社を商標権の侵害として損害賠償請求します。




シスコン社の言い分としては以下の通りです。
・該当ソフトはPC版からコンシューマへ移植する際、ただの丸写しではなくコンシューマ向けに大幅に独自開発された
サウンドを追加し、新規空港を追加し、遊びやすくするために難易度調節も施した
・宣伝費約6565万円をかけてコンシューマ版ぼく管の知名度を上げた
テクノブレイン社長に直接商標を取っていいか確認して許可を貰った
・コピー対策のために自社製品は必ず商標を取るような方針を取っていた
ゲームボーイアドバンス版ぼく管の発売は2000年12月、コンシューマ版の商標を取ったあとに気がつき、驚いた。当社の商標の侵害にあたるとおもった。
・当社の商標として認識されているぼく管をただ乗りしている格好になるため、売り上げの10%にあたる3284万円を支払え



この上半分に関してはそこそこ理解できなくはないような主張のように思えます。当時としては「PC向けソフトウェア」と「家庭用ゲームソフト」とが同一のものとは見なされていませんでした。今のようにPCとプレイステーションとでマルチソフトが出るのが当たり前……というわけではなかったのです。


しかしタム社の反論(およびテクノブレインの動き)によってこれらの言い分が揺らぎだしました。



・該当製品はそもそも2000年8月に行われた任天堂スペースワールド2000にて発売を発表している。2000年12月にはじめて知ったという日本シスコン社の言い分には無理がある
シスコン社はその発表を知った後、10月に商標出願手続きを行った。テクノブレインに無認可で。社長から許可を貰ったというが、対価や承諾許諾条件や詳細について何らの取決めがされていないのは不自然
・しかも口頭で許諾を与えるというのは極めて不自然
・そもそもそのテクノブレインが商標登録をした直後に,商標登録異議の申立てを行っている
シスコン社が商標出願したのは許諾を受けたと主張する時期(平成11年7月)から1年以上経過した後の平成12年10月12日で、コピー対策というのには遅すぎる
・そもそも元々PCゲームとしてぼく管はすでにヒットしておりシスコン社はそのPS1向け移植作品の非独占サブライセンシーでしかない(しかも裁判中に契約が終了)



これらの反論を受け、裁判所が出した結論としては




シスコン社の本件商標権に基づく請求は,公正な動機に基づくものとはいえない。すなわち,
シスコン社は、タム社が平成12年8月24日に被告ソフトの発売を公表して発売予定を知った直後の平成12年10月12日、テクノブレイン社の許諾を得ずに本件商標の出願手続を行った
シスコン社タム社ソフトが平成13年春発売予定であることを理由として早期審査の請求をしている
シスコン社テクノブレインに対して著作権侵害及び不正競争防止法違反を理由として二回にわたり警告を発したりしていること等の事情に照らすならば,シスコン社が本件商標を出願し登録を受けた本件商標権に基づき本訴請求をしたのはテクノブレインから実施許諾を得て,被告ソフトを製造,販売するタム社の行為を不法に妨げる目的でされたものとみるのが相当である。
シスコン社の被告に対する本件商標権に基づく請求はタム社ソフトの製造について許諾を与えたテクノブレインの標章と同一の標章を自ら商標登録した上,本件商標権に基づいて権利行使されたものであり,また,その目的もテクノブレインのライセンシーの製造,販売を妨げるためにされたものと解されるから,正義公平の理念及び公正な競争秩序に反するものとして,権利の濫用に当たり許されないというべきである。


このような判決が下り、シスコン社の請求は棄却。訴訟費用はシスコン社の負担となり、完敗しました。このあと再度テクノブレインから商標の異議申し立てがあがり、この裁判の結果を持って見事商標取り消しとなりました。実はその異議申し立ては二度目であり、最初はこの裁判の前に行われていましたが、特許庁の判断では「PCゲームとコンシューマ向けとでは別だから、商標は有効」というものでした。ものすごく意外に思われるかもしれませんが、特許庁の判断をみると大抵の商標の異議申し立ては却下されているようです。一度通った商標は覆すのは難しい……ということですね。


そしてこの裁判でわかるのはもう一つ。そうやって獲得した商標でも丸儲けしようとしても、なかなかうまくいかない、ということです。シスコン社がこれ以外で商標関連で裁判を起こした様子はなく、そのうえゲーム会社としての活動はやめ、もう一つの事業の柱だったパチンコ・パチスロ機製造のほうに注力し、そちらのほうで現在でも第一線で活躍する企業となっています。やはり地道に働くのが一番のようです。


ちなみに商標関連で検索を書けるとカプコンがロックマンボルトという接着剤を訴えていたり(結局訴えは棄却されています)、テクモコナミ「実況ワールドサッカーはうちのテクモワールドサッカーの商標を侵害している!」と訴えていたりと(これも棄却されてました)、実はかなりいろんなことが起きていたことがわかります。「コナミは全く無関係のこなみ珈琲を訴えるくらい非道な会社だったんだ!」と先走る前に、検索してみると楽しいですよ。


ここでこの記事は終わります。お疲れ様でした。



参考リンク
shohyo.hanrei.jp