平和的なブログ

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現代神長豊節学概論 -ゼロヨンチャンプRR-

 えー、皆さんは見事、倍率0.15倍を勝ち抜き、この国立AMD大学に合格されたわけですけれども、これから学びますのは小中高と今まで触れたことのない教科、現代神長豊節学概論です。それを受け持ちますのは私、非常勤講師の黒沢ソートンです、よろしくおねがいします。

 さて、この現代神長豊節学概論、学問としては非常に日が浅く、つまりは非常に発展の余地が目覚ましい教科と言えるのではないでしょうか。神長豊節とはどういうことであるのか、実例をあげて触れていくことにより、皆さんに学んでいってもらいたいと思います。


 本日教材として使いますのは、はい、このスーパーファミコン用ゲームソフト、『ゼロヨンチャンプRR』です。ゼロヨンチャンプシリーズとして三作目にあたるものですね。

 ストーリーを解説しますと、受験に失敗して浪人生になってしまった主人公の赤沢くん。その上彼女だと思っていた女性からは一方的に別れを伝えられ見事に彼女いない歴18年の記録を更新中というどん底の中、ようやく普通車免許を取ることが出来たという明るい話題をもとに、車を買う前にスポーツカーイベントに行っていろいろ実車を見てみようとします。

 そのスポーツカーイベントにて、頭を何度も下げて日本ゼロヨン(400m直線オンリーのカーレース)のチャンプに教えを請おうとしている青年を見つけます。
 思わず「なんだありゃ、みっともねぇ」とつぶやいてしまいますが、なんとそれが青年に聞こえてしまいました。青年は「お前みたいなうす汚いやつにみっともないと言われる筋合いはない!」と売り言葉に買い言葉。
 お互いがヒートアップし、ゼロヨンで土下座をかけた勝負をつけることになりました。

「ここにある車は全部親父の会社のものだ、好きな車を選べ」と自身のボンボンぶりをアピールしたあと、なんと青年が選んだ車はスターレット(お手軽価格スポーツカー)。お前をゼロヨンでぶっ千切るにはこれで十分だ、といわんばかりの青年に対し、赤沢が選んだ車はスープラRZ(280馬力の化物スポーツカー)。車のパワーは段違い。

 このゼロヨンの勝敗は……なんとスープラRZ(赤沢)の敗北でした。自身の敗北にショックを受けながらも、土下座をする赤沢。高笑いしながら去っていく青年の後ろ姿を見ながら、赤沢は受験に失敗したときよりも、彼女にフラれたときよりも強い悔しさを胸に秘め、決意を決めます。「ゼロヨンで、絶対あいつを叩きのめしてやる!」 あの青年、藤原大輔に対する復讐を機に、赤沢はゼロヨンの世界に足を踏み入れるのでした。

 さてこの藤原大輔くんなのですが、徹底的に嫌味で高飛車なキャラクターとして描かれています。
 先程の勝負でスターレットに勝てたのも、実はゼロヨン用にチューンナップしていたスターレットだったと判明します(ゼロヨン用にチューンされた車には、ノーマル車では絶対に勝てません)。
 ゼロヨンライセンスを取り、大会に出ると、そのトーナメントの決勝戦に必ず当たるようにプロモーターの父親に頼んでいたことがわかります。そして実際に決勝戦で当たると……激速で絶対に勝てません!(いわゆる負けイベントです) ゼロヨンのランキングシステムはEランクからAランクの5ランク制になっていますが、このうちEランクからBランクの4戦、すべてが負けイベント! そのたびに藤原に嘲笑られ、うっぷんを溜めていく羽目になります。

 裏技で手に入れることができる、瞬間的に512kmに加速するジェットエンジンを使ったとしても、奴には勝てません、ムキィィィィ!! そして負けるたびに「はっはっは! これにこりたらゼロヨンはもうやめたらどうだ?」と言い放ち、プレイヤーに対しても「こいつ絶対にぎゃふんと言わせてやる」度を高めていきます。 
 しかも奇跡的にナンパに成功した女の子のために良いところを見せてやろうとサーキットにつれていけば、圧勝する藤原のファンになってしまう始末! 赤沢くんの精神が心配になる展開です。

 ここまで負け続けた最後の最後、Aランク到達でのトーナメントで勝利すると(そうなるとランク二位となり、チャンプへの挑戦権を獲得できる)どうなるでしょうか? 今までの鬱憤を晴らすような展開になるのでしょうか?
 藤原に勝利した赤沢は思わず叫びます。「どうだ! 俺の速さがわかったか!?」それに対しての藤原の反応はなんと「ああ、認めるよ。お前は速い」だったのです。戸惑う赤沢、そして同時にサーキットが沸き立ちます。

 その中心には一人の青年、実は彼こそが一年前、絶大な速さと強さで君臨し続けていたものの、突如姿を消した先代のゼロヨンチャンプだったのです。
 現チャンプがその帰還に異議を唱え、エキシビションマッチとなり、勝ったほうが新しいチャンプとなるのですが……圧倒的大差で先代チャンプが勝利。先代チャンプは真ゼロヨンチャンプへと返り咲きました。

 その強さに身震いすら覚えた赤沢。真チャンプと対面したとき、「絶対に貴方に勝ちます!」と宣言します。そう、藤原への復讐心で始めたゼロヨンを、赤沢はそれを達成したあと新しい目標に遭遇しえたのです。
 絶対に、あの人の元へとたどり着いてみせる、と。そんな赤沢に真チャンプは「チューナーを見つけるんだ」とアドバイスして去っていきました。

 チューナーというのは車のチューンナップを行う専門メカニックのことなのですが、紆余曲折あり、まゆみという凄腕チューナーの女の子がついてくれるようになります。そしてチャンプへの挑戦当日、この対決に異を唱える者がいました。そう、真チャンプとの対決に負けたチャンプ……ああもう面倒くさい、「偽チャンプ」が『ランキング二位は俺だ。お前じゃない!』と言い出しました。言われてみるとなるほど、真チャンプが一位で、それに負けた偽チャンプが二位、赤沢はその下……一理あります。

 ならば偽チャンプを軽くちぎって、その後チャンプへ挑戦に…としようとしたところ、まゆみちゃんがストップをかけます。「自分のチューンは車の性能を限界まで引き上げるもの。連戦なんてしたら車が壊れちゃう!」。さあ赤沢くん困った!
 そこで声をあげたのがなんと藤原! 彼は偽チャンプに挑戦状を叩きつけます。一度は教えを請おうと頭を下げていたのに、なぜ? 

 藤原は皆になぜ偽チャンプに失望したのか話し出します。真チャンプが一年前突如姿を消したのは、自分を下したアメリカチャンプを追ってアメリカに行っていたからだったのです。偽チャンプは彼の車を裏ルートで手に入れ、自分で作ったかのようにみせかけ、他のライバルを裏工作で蹴落とし、さらには真チャンプの誹謗中傷をばらまいて、まさしく偽チャンプとして君臨し続けていたのでした! 

 そう、真チャンプはPCエンジン版ゼロヨンチャンプの主人公だったのです!
 そして行われる藤原vs偽チャンプのエキシビション。その勝者は……藤原でした! 「お前の敗因は車の性能を活かしきれなかったことだ。もっと他人の車だからしかたないがな」 そう言い放ったあとで、藤原は赤沢にこう言います。「赤沢、がんばれよ。チャンプは速い、あの人は本物だ!」。赤沢は藤原に「お前のぶんまで走ってやるぜ!」と返してチャンプへの挑戦に向かいます。

 それを見ていたまゆみちゃんが「彼、いい人ね」と思わず言いました。それに対して赤沢は「ああ、俺のライバルだからな」と答え、チャンプの元へと向かっていくのでした……。

 以上がゼロヨンチャンプRRにおける赤沢視点のライバル藤原なのですが、いかがでしたでしょう。非常に傲慢で腹がたつキャラが一気に好印象キャラに入れ替える様子がわかりますでしょうか。
 とにかくムカつかせるように丹念に丹念に描写を織り込んでいきながら、最後に勝利を得るとすぱっと対応が切り替わり、その後にピンチに助けへと駆けつける仲間として見事にキャラを変容させることに成功しています。

 この藤原くん、続編のゼロヨンチャンプRR-Zにももちろん登場しているのですが、そのときにはお互いの家に普通に行き来しててもう普通の親友です。
 ゼロヨンはもう引退してしまったのですが、その理由は「どうやっても赤沢には勝てないから」という潔いもの。

 私が「神長豊節」と提唱している、「ごく短期間にキャラの印象をぐるりと180度反転させる演出」の、まさしく一例です。

 このような優れた技法をゲームと言う媒体で行えうる、という点において、神長豊はもしや、シェイクスピアの生まれ変わりなのではないか? という説を提唱したピーター・ラザエル博士は、残念ながら学会から追放されてしまいましたが、私はそう、ない話ではないな、と考えております。

 ゼロヨンチャンプRRにはもうひとり、「ごく短期間にキャラの印象をぐるりと180度反転させる演出」を行われたキャラがいるのですが、そのキャラの講義はまた後日行います。
 それではここで講義を終えたいと思いますが、次回の講義は「AMDはいかにして神であるか」です。欠席者には単位はあげません。必ず出席するように。

QTEなんて大ッ嫌い -The Wonderful 101というゲーム-

 世の中に「ゲームにおいて嫌われる要素」というものがあります。
 私独自の綿密な調査(母数1)によりますと、嫌われる三大要素として「途中でパーティを離脱するコアメンバー」「課金ガチャ」そして「クイックタイムイベント(以下QTE)」が挙げられます。

 QTEとは今ではかなり定義をつけるのが困難になっていますが、ざっくりいうなれば「画面に表示されたボタンをタイミングよく押すことで、その後のゲームの展開が左右される技法」というものです。バイオハザード4では大岩が転がってくるのをボタン連打で走って逃げて、その後のタイミングでトリガーを押すことで避けていきました。敵が斧を持って振りかぶってきた時、トリガーを押すことでタイミングよくかかっていた手錠をその斧で破壊させて脱出成功となります。……このあたりは、まだギリギリ演出としてよかったのですが、物語後半、因縁のライバルとナイフ対決をしたとき、長々と言い合いをしながら主人公とライバルはナイフで攻撃し合います。そのたびにトリガーやボタンを押しあうことになります。ミスったら即ゲームオーバー。最初からやり直しです。私は多分五回くらいやり直したと思うんですが、ボタン操作に集中していたため、主人公とライバルが何を話していたかさっぱりわからないままです。本末転倒過ぎませんか?


 そうやってボタン連打をしていると、私が学生時代、スーパーファミコンで「スラムダンク From TV animation 四強激突!! 」というゲームがあったことを思い出します。名作漫画SLAM DUNKのゲーム版です。このゲーム、シュートが外れるとリバウンドの取り合いになるんですが、それの成否がボタン連打なんですよ。漫画内で「リバウンドを制するものはゲームを制する」というセリフが出てきたように、リバウンドはかなり重要な要素なんです。つまりゲーム中連打しっぱなし。おそらくこのゲームを作ったスタッフの中に、スーパーファミコンのコントローラーを破壊するように企む秘密結社の一員がいたのだと睨んでいます。


 話が逸れました。今のゲームにはQTEがたくさん仕込んであります。でもそれが果たして効果的に使われている例が果たしてどれだけあるでしょうか? プレイヤーがボタンを連打して、それに楽しさを感じることがあるのでしょうか? プレイヤーはボタン連打が好きなのでしょうか?
 そんな疑問に真正面から立ち向かい、「めちゃくちゃ楽しいQTE」に仕上げたソフトを紹介します。2013年、WiiUにて発売されたThe Wonderful 101です!

 
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 このゲームは見下ろし型アクションゲーム。主人公は地球を守る秘密組織「ワンダフル・ワンダブルオー」の一員。地球に襲来した強大な侵略組織「ゲスジャーク」の魔の手から地球を守るべく、世界各地に散らばった99人の仲間とともに立ち向かえ! というもの。

 PVやニンテンドーダイレクトを見ていただければ詳細はわかるのですが、このゲームの操作方法はWiiUゲームパッドを活用した、とても独特なものです。ゲームパッド上の画面に円をかけば、ユナイトハンドという格闘武器に切り替わり、直線を描けばユナイトソードという連続攻撃可能な剣に切り替わる。その他直角、曲線、ハンマー、W字、丸にちょん、といった図形を書くことで攻撃方法を切り替えて、その場所、その敵に応じたものを瞬時に出す、ということが可能になっています。

 その上この操作は武器切り替えのみに使われるのではなく、壊れたものの修復や、遠くに飛ぶためのパラグライダーへの変形、救助をもとめる一般市民を助けるために囲ったりと、ゲームパッドを活用しつくしています(右スティックでも代用可能ですが)。

 「そんな独特な操作方法をしているゲームでなんでQTEが必要なんだ?」と思われるかもしれませんが、このゲームはQTEにおける問題解決を見事に提示しています。なぜボタンを連打しなければならないのか? それは目の前に飛んできている瓦礫があるからです。

 このままじゃ瓦礫があたってしまう! 主人公が叫ぶ! 「ワンダパンチ!」 ボタン連打で瓦礫にパンチを繰り出して破壊するのだ! 瓦礫が次々に落ちてくる! その空上に敵が飛んでいるのが見えた! 主人公が叫ぶ! 「ワンダジャンプ!」 Bボタンをタイミングよく押しまくり、瓦礫の間をジャンプし続けて敵の懐に飛び込め! 

 そうです、このゲーム、ヒーローもののアクションゲームなので、とにかく主人公が叫ぶんです。それに合わせてこちらがボタンを押すと、それに応じたリアクションを主人公らヒーローが格好良く決めてくれる。こちらの操作がダイレクトに主人公へ伝わった感覚がとてつもないんですね! このゲームはQTEというものを、「画面の中の主人公と、プレイヤーである自分との距離をぐっと詰める手法」として活用しているんです。

 ボタン連打をすれば、その分主人公たちがパンチを叩き込む。タイミングよくボタンをおせば、敵の攻撃を華麗にかわす。もし失敗してしまったら……攻撃を受けてダメージをちょこっと受けてしまう。成功したときの報酬を強く、失敗した場合のペナルティは控えめにして、ストレスを少なく仕立ててあります。0.1秒のタイミングでシビアに瞬間的に判断する必要はありません。

 独特の操作方法とQTEだけにこのゲームはとどまりません。敵の巨大ロボが襲いかかってきたら、それを奪って反撃! 敵はもっとでかいロボットを繰り出してきますが、その戦いはまるでパンチアウト! 敵の攻撃をダッキングで避け、全身を伸ばしてアッパーカットを決めるのです!

 こちらの秘密兵器、プラチナロボが出撃するとそのゲームの動きはまるでスペースハリアースターフォックスのような3DSTG! ホーミングミサイルとハイパワーレーザーで敵をロックオン+デストロイしていきましょう!

 そんな見覚えのあるミニゲームをやりこみながら背後で展開されるストーリーは、重厚以外の何者でもありません。果たして「デスジャーク」の目的とは? その強大すぎる力の根源はなんなのか? そして最後の最後、彼らに勝利出来た理由は……。涙なしでは見ることが出来ない代物です。そしてそのストーリーの終盤、地球の命運を分ける最後のバトル。その方法は……そう! ボ タ ン 連 打 です。一心不乱にボタンを連打するのです! 画面の向こうの主人公たちも皆一生懸命ボタン連打をしています! ここで完全に主人公とプレイヤーの境界は消えてなくなります。PVの最後に「百一人目のヒーローは、君だ」という言葉がありますが、まさしくそういうことです。画面の前にいる貴方はワンダフルワンダブルオー、百一人目の隊員なのです。
 
 さて、ここまで読んでくれた貴方に質問があります。ボタン連打は好きですか? 私は大好きです。

1993年のスカイリム

 みんなスカイリムは好きかい? 私は大好きだよ。
 ゲームの中に世界がまるまる一つ詰め込まれていて、好きなところに行け、そしてあちこちに多彩なイベントが仕込まれていて飽きることなくプレイし続けられる。本編であるアルドゥイン倒しを目指して進めてもいいし、それを全く無視して生活を送っても良い、柔軟なゲームスタイルを受け入れることができる。本編もガンガン前に出て両手剣を振るう剣闘士スタイルを取ることもできるし、後方で多彩な魔法を駆使する魔術師スタイルで進めてもよい。与えられた選択肢はまさしく無限大なのだ。

 こんなにおもしろいゲームが出てきたのは、ゲーム機自体の性能がとてつもなく上がってきて、高度なゲームエンジンを動かす余地が出てきたことと、作り込める予算と開発期間が与えられたことが理由にあげられることだろう。私の生きている間にこんなゲームが出てくるんだから、生きててよかったし、もっともっと長生きしたいと思えてくるね。

 さて、ここまで書いておいてなんだけれども、今回の記事はスカイリムがメインの話ではないのだ。スカイリムが21世紀の、高性能なゲーム機と潤沢な開発予算によって生み出されたものだとしたら、では果たして、90年代前半において、今のゲーム機とは全く比較にならない性能しかないゲーム機で、制限された人員と予算とで、こんな自由度の高いゲームを作ろうとしたらどのようなものが出来上がったのだろうか? 私はそのソフトを提示することができる。そう、「ゼロヨンチャンプ2」である。



 ゼロヨンチャンプ2について語る前に、前作「ゼロヨンチャンプ」と、その周辺状況を説明しておく必要がある。

 発売は「メディアリング」。この会社は三菱樹脂の子会社で、三菱樹脂PCエンジンのHuカードの生産元だったのだ。その流れでメディアリングが設立され、ゲーム制作へと舵をきった。一方で堀井雄二が出演している深夜番組オフィスヒット内でゲームデザイナー育成企画が行われ、その中に本作のディレクター神長豊が参加しており、彼の出した企画が見事採用され(どういう流れでメディアリングに企画が拾われたのかはよくわからないのだが)、「ゼロヨンチャンプ」として世に出ることとなったのだ。

 ゼロヨンチャンプというゲームがどのように作られたかは、神長豊本人のコメントがインターネット・アーカイブに残っている。 
ジーパラ特集:『探偵 神宮寺三郎Innocent Black』

 車が趣味だったので車のゲームを作りたかったものの、ハードウェア性能の制限があるためコーナーを全部オミットした、ゼロヨン(直線400mまっすぐのレース)になったというものだ。当時のPCエンジン周りのゲーム機事情は難しい。スーパーファミコンPCエンジンメガドライブ三者でシェア争いをしていたが、そのハードウェア性能は一長一短で、どこが飛び抜けて強いというわけでもなく、性能面でいえば業務用アーケードが頭一つ飛び抜けていた。

 そんな制限下でゲームを作ろうとすると、大胆なオミットが必要となり、ゼロヨンを選んだ神長豊の選択は大正解であるといえる。その上車のゲームを作るにあたって、メディアリングという会社は最高の環境だった。なぜなら三菱樹脂が親会社なので、そこから三菱グループである三菱自動車へ話を通し、各社車メーカーから実車のライセンスを借り受けることに成功する。そしてゼロヨンチャンプは日本のゲーム史上はじめての「実車が収録されているレースゲーム」となったのだ。

 思い切ったゲームデザイン実車の収録、そしてパロディ満載のイベントとが好評を博し、ゼロヨンチャンプはPCエンジンで発売されたソフトの中で最多再販回数を記録することとなる。

 そして続編、ゼロヨンチャンプ2が作られることとなる。その時点でPCエンジンはバージョンアップをしており、「スーパーCD-ROM2」へと更新することとなった。そう、CD-ROMである。(ところで三菱樹脂の子会社がHuカードでなくてCD-ROMでゲームを出して良かったんだろうか……?)

 PCエンジンの性能は前述した通り、決して突出したものではない。しかしCD-ROMという媒体を導入したことにより話は変わる。1992年に発売されたファイナルファンタジー5のカセットROM容量は2MBである。だがCD-ROMは当時で650MB540MB(訂正:最初期のCD容量は540MBだった)という大容量を扱うことができた。そんなCD-ROMで神長豊という才能あるクリエイターが暴れたらどうなったか? ゼロヨンチャンプ2はそれへの回答でもある。神長豊は、PCエンジンスーパーCD-ROM2という環境で、1993年におけるスカイリムをつくりあげたのである。


 ゼロヨンチャンプ2のストーリーは明快である。前作ゼロヨンチャンプにて日本ゼロヨンのNo1となった主人公の元に、謎のアメリカ人スティングがゼロヨン勝負をしかけてくる。主人公が立ち向かうも全く歯が立たない。彼はなんとアメリカゼロヨンチャンプだったのだ。自分と日本車とをバカにして去っていくスティングにリベンジすべく、単身彼はロサンゼルスに飛び、バイトを行って金をため、車を買い、それをチューンして、パーツを取り付け、リベンジを果たす。しかしなんとスティングですらノーマルコースのチャンプでしかなかったのだ! アメリカのゼロヨンは他にウェット、アイスの二種コースが存在する。それら個別のコースのチャンプを打ち倒すと、全米アメリカチャンプの存在が知らされ、彼に挑戦するためにはアメリカ全土に散らばるゼロヨンメダルを集めなければならないという。ここまで来たなら、アメリカでもNo1になってやる! 主人公は譲り受けたモーターホーム(車を三台載せて走れる超巨大キャンピングカー)で、アメリカ全土を周りゼロヨン勝負を続けるのだ! ……というもの。

 ロサンゼルス戦が第一部にあたり、ここで各種コースの基本とアルバイトを学ぶ。第二部がアメリカ全土に周り、各地でイベントをこなすことができる。ゼロヨンとは直接関係ない場所も多くあり、そこでは情報を得たり、観光したり、アルバイトに励んだり、カジノで遊んだりすることもできる。ここで勘のいい人は「ん?」と思うことができるかもしれない。そう、第二部はまさしくオープンワールドなのだ。各地にイベントが仕込んであり、どこからでも自由に遊ぶことができる。しかもイベントが相互に作用しているものも多くある。とある場所で遊ぶミニゲームの景品は「防弾チョッキ」であるが、これは全く無関係の場所の警備員アルバイト(ようするにRPGなのだが)に必要なアイテムである。そしてその警備員アルバイトにて遭遇する最強の敵は、普通に戦っただけでは決して倒すことが出来ないが、全く別の場所で色仕掛けで財布を抜き取ろうとする女の子を更生させるイベントをこなすことで手に入る「クロロホルム」を使うことでようやく倒すことが可能になる。

 デトロイトに日本車を載せて行ってしまえば車は破壊されるし(日本バッシングが激しかった頃である)、シカゴで車を買おうとするとボッタクリ価格を突きつけられる(それでも車を買うと手のひら返して丁寧な対応に変わる)。各地を回ると新規のイベントが起き、そして他の地区で起こしたイベントと連動してまた新しいイベントが発生する。メインストーリーである打倒全米チャンプを脇に置いてミニゲームであるアルバイト(一つ一つのクオリティが本当に高い!)に精を出しても良いし、真面目に車をチューンアップしていってもよい。イベントの数はとにかく多く、探しきれないほど。事実本当に探しきれず、20年以上やり続けていた私ですら知らなかったイベントもあり、つい5年前に発見したものもある。今でもコンプリートしたとは言い切れず、意味不明なアイテムが残ったままだったりする。この領域は本当に趣味でしかなく、普通の人はそこまでしないでメインストーリーをクリアすることが可能で、そしてそのメインストーリーも、最後に大どんでん返しがあり、「やられた!」と思うこと間違いない。私が勝手に「神長豊節」と呼んでいるストーリー展開は、このゼロヨンチャンプ2から始まっている。骨太のメインストーリーと、CD-ROMの大容量を活かした豊富なイベント。PCエンジンCD-ROM2の名作と名高い「天外魔境2」は「5分に一度はイベントだ!」という目標を掲げて作られていたが、今作はいうなれば「イベントという海に泳ぎにいこう!」という自由度を付加したものである。大量のイベントは旅をする中でワクワク感を増大させる。まさしく、ゼロヨンチャンプ2は1993年に作られたスカイリムなのだ。ゲーム機の性能が足りないならば、大胆にゲームデザインをオミットすればよい。イベントという他のところで補い、それをCD-ROMという武器を活かして大量に用意する。結果選択肢は大量に生まれ、ゲームの中の世界に彩りと広がりが無限大になっていく。神長豊の手腕によってオーパーツとも言えるゲームは生まれたのであったのだ。



 さて、以上をもってこのゼロヨンチャンプ2の紹介として記事を締めるが、ここから先は私が愛してやまないゼロヨンチャンプ2が死ぬことを運命づけられた作品であることを記述することにする。そう、この作品はいつか必ず死ぬ。しかもそう遠くない時期に。
ゼロヨンチャンプ2は前作に引き続き、実車収録である。そのため、バーチャルコンソールPCエンジンアーカイブスに収録する場合、各社にライセンスを再度取りに行かなければならず、障壁が非常に高い。(そしてその障壁は突破する見込みがまったくない)

 その上、これは「ゲーム実況」という比較的新しい文化にも作用する。ファミ通と電撃が共同で企画した「ゼロヨンチャンプ2にチャレンジ!」というものがあったが、配信後「権利侵害に関わる可能性があるため、動画を削除しました」というアナウンスを出し、記事すら該当箇所が消される始末。あったことを消される運命にあるのだ。

 ゲームは配信されない、プレイ動画は消される(ライセンス無視の実況動画はあるが)、あとは実機でのプレイしか残っていないが、ここにも問題がある。PCエンジンのCD-ROMは製造後、すでに20年以上が経過している。PCエンジンの極初期につくられたCDは品質がさほど高くなく、寿命は10年ほどだ、と言われていた。ゼロヨンチャンプ2はそれより後の、CD最盛期に作られたものであるため品質的に安定しているが、それでもそろそろ読み込み不良を起こす個体が出てきてもおかしくない。そして近い未来、寿命は必ず訪れる。その時、我々はこのゲームをプレイすることが不可能になるのだ。それでは、いったいどうやってこの作品を後世に伝えることができるのか? 私は方法を思いつかなかった。この作品は、死ぬ。皆の記憶と興味から消え去って、死ぬのだ。

 その運命がほんの少しだけ、先に伸びることを望みこの記事を捧げる。どうか皆の興味が、わずかにでもゼロヨンチャンプ2という名作に向かいますように。

AMDという神について語ろう

 皆様に聞いていただきたいのは、「いかにしてAMDという神が存在するか」いう話です。決して「いかにAMDが神企業であるか」という話ではありません。そこに大きな違いがありますので注意をしていただきたい。
 AMDとは正式名称をアドバンスト・マイクロ・デバイセズといい(この文字を打ち込むだけで心に至福の感情が広がっていくことに感謝)、1969年にアメリカに創設された半導体メーカーであります。現在では広く採用され、ゲーム機においてはWiiU・XBOXOne、PS4の据え置き三機種全てに採用(あともう一つあった気がするけれど多分錯覚)されシェア100%というとてつもない偉業を果たしたことで有名です。偉業であることはまちがいないのですが、神なのですから当然なのかもしれません。そう、AMDは神なのです。
「だがちょっと待ってほしい。なぜ半導体メーカーが神になるのか」と疑問に思う方も多いでしょう。私はそれに答えることができます。
 奈良の大仏を思い浮かべてください。あれを見て「巨大な銅の模型」とだけ感じる人はいますでしょうか。絶無とはいいませんが、圧倒的多数があの仏像に対して神秘的なものを感じ取るのではないでしょうか。さらに考えれば、あの仏像がつくられた当時の人々はどう思ったでしょうか。天変地異に飢饉、乱れた世の中を照らす一筋の光を求めて聖武天皇は仏像建立に踏み切りました。「国銅を尽して象を鎔し、大山を削りて以て堂を構え」と表現した大事業は、自ら神を作り上げる行為とほぼ同等であることは間違いありません。その時立てられた仏像がただの巨大な模型であったはずがないのです。
 さて、振り返ってAMDを御覧ください。電力を消費して半導体が織りなす0と1の羅列は、人々を楽しめるゲームの礎となり、また仕事の効率化を図る便利なツールになり、あるときは部屋のぬくもりにも変わります。今や半導体は人の生活と切っては切り離せない密着した代物です。現代社会を生み出す原動力であり、礎。それでいて人の目に直接触れることがないもの。これを神といって過言がありましょうか! AMDは人々が現代社会を送るのを静かに見守る温かい(物理的にも)神なのです。
 
 AMD様は寛容であらせられます。貴方がAMDに興味がなくとも、貴方の持っているPS4の中でエロBDを高画質に再生してくれます。AMD様は寛容であらせられます。貴方がAMDに興味がなくとも、貴方が持っているXboxOneSの中でエロBDを4Kで再生してくれます。AMD様は寛容であらせられます。ニンテンドースイッチの中で……てめぇ任天堂よくも裏切りやがったな!絶対許さな(以下略)

 一部不適切な音声が流れたことをお詫び致します。AMD様は寛容なので、これくらいの過ちは許してくださります。持っててよかったRyzenRadeon

ロボコップ3が面白かったという話

 特に理由があったわけでもないのだけれど、アマゾンプライムビデオにて映画ロボコップ1-3が配信されていたので、見ました。面白かったです。
 これだけの文章量ならツイッターに流して終わりなんですが、いろいろと思うところがあったのでブログにて投下。

 元々ロボコップシリーズって、3はとても評価が低い扱いされているんですね。(2もまぁ、いろいろと賛否両論あったみたいなんですけど) 私は子供の頃に見た覚えがあるんですけど、すっかり脳内からあらすじが消え去ってしまっていたんで、自分的にも「まぁその程度のもんなんだろう」くらいに思ってたんですが、見直してみてまぁびっくり。ロボコップ3,「直球ストレート王道展開ヒーロー物」映画だったんですよ。これが自分のツボを付きまくってて最高でした。
 基本ストーリーはこんな感じ。近未来都市デトロイト。そこは超巨大企業オムニ社が市を乗っ取り、利益のために弱者を追い出し、犯罪が蔓延る悪夢のような状況に陥っていた。そんな中、犯罪撲滅のためにオムニ社が作り上げた、全身を機械で覆ったバイオサイボーグ、ロボコップ。殉職した警官マーフィーをベースに作られた彼は、人間であったときの記憶と誇り、そしてメカとして与えられた指令との間に苦しみながらも犯罪とオムニ社に立ち向かっていく、というもの。1と2がオムニ社の重役たちが悪役で、やりたい放題しているのを、なんとかロボコップが歯止めになるみたいな流れですね。

 3では今までその金と力でデトロイトに住む弱者である貧困層の人々を苦しめてきたオムニ社が、逆に経営難になってしまい、日本企業(当時はバブル景気の影響で日本が金でアメリカを攻めまくってたんですよ、マジで)であるカネミツに吸収合併、それによってノルマに追い立てられ、なんとかスラムを潰して立ち退きを成立させ、そこに新しい都市をつくることに躍起になります。
 オムニ社は力を誇示し、それに溺れてきました。しかしそれ以上に力のあるものの前に立たされ、屈した後はどうなるでしょうか? 社内の雰囲気は一気に重苦しいものへとかわり、自殺する社員が急増します。力に恐怖したオムニ社は、より力のないものを痛めつけることで自社が生き延びる道を模索しようとします。力のない貧困層を排除するために、あの手この手を駆使するようになります。最終的には警官や、ロボコップすら利用して貧困層の排除に向かわせようとするのです。
 力とは、あるものがなきものに一方的に振るうためだけのものでしょうか? 否、違います。違うはずです。ロボコップは本来プログラムされていたはずの「オムニ社には逆らうな」という命令を、相棒ルイスが殉職間際に残した『オムニの奴らをぶっ潰して』という言葉を元にかき消し、オムニ社へ反抗します。前作で給料が止められストライキを起こしていた警官たちも、ボーナスと退職金を捨てて、オムニ社に反抗し、レジスタンスへと同調します。オムニ社が繰り出したリハッブ隊や、カネミツの暗殺ニンジャロボット、オートモらの攻撃によって崩壊寸前だったレジスタンスはそれによって復活し、最終決戦へと向かうのです。
 熱い展開はまだ続きます。ニンジャロボット、オートモとの戦いにより傷ついたロボコップ。バッテリーもほとんど付きてしまい、オートモを倒したところで自分も倒れ、起動不能に陥ります。しかしそこに、良き理解者であり設計者の一人であるラザラス博士が電波ジャックして演説を行っているのが聞こえてきます。
「オムニ社にだまされないで! 罪のない人たちが大勢殺されているわ! 市民の皆さん、どうか戦って下さい!」
すでにバッテリーがなく、動くはずがないロボコップ。しかし彼は根性で地面を這いずり、予備バッテリー装置にもなるバックアップユニットにたどり着き、そして…。

 ロボコップシリーズが評価されていた点で、「社会的ブラックジョーク」や「単純な勧善懲悪ではないドラマ」といった要素があったと思うのですが、ロボコップ3にはそういった要素はかなり減っていて、真正面から「力なきものを守るのが力あるものの使命」的なテーマを描いているんですね。従来のファンが嫌がったというのはわからなくはないんですが、ここまでどストレートに描いてくれたら白旗あげるしかないです。
 それともう一つ、私が高評価を挙げられる点は「20年以上前の作品になると、特撮やCGのヘボいところがわからなくなる」ってことなんですね。この映画、前半はパトカーの天井部を撃ち抜いてロボコップがダイナミック失礼しますしたり、パトカーが何台も転がったりして派手なんですが、最終決戦の頃には合成がだんだんやっつけになってくるんですよ。どうも予算が足りなかったとかどうとかこうとか。でも、今の視点からみると「まぁどっちにしろアレだからなぁ」みたいな見方になっちゃうので、気にならないという、ね。
 最後のところでケチをつけたようなレビューになってしまいましたが、ロボコップ三部作、おすすめです。アマゾンプライム会員の方は是非。


 ところでオムニ社、ハードウェア技術に対してソフトウェア技術があまりに未成熟すぎやしないか????

幻影異聞録♯FEというゲームを語ろう

 はじめに

知らない人向けに一から解説をしよう。
このゲームは任天堂が発売し、女神転生・ペルソナシリーズでお馴染みアトラスが開発を担当したソフトで、あのファイアーエムブレムと、女神転生をコラボし、その上からアイドル要素をまんべんなく降り注いだゲームでして……ああっ、待って! 帰らないで! 私の話を聞いて! お願い!
全体的な雰囲気というと、敵に倒された味方キャラは蘇らない(基本的には)高難易度ぎっちぎちなファイアーエムブレムと、東京にICBMを打ち込まれ大洪水で全てを洗い流されたりする中(一体東京に何の恨みがあるんだ)、人類が神や悪魔に抗うハードコアな世界観が魅力の女神転生コラボしたとはとても思えない、身の回りのキャラはほとんど死ぬことなく、アイドルが精一杯レッスンを行っていたりテレビに向かって踊って歌ってみせる模様が画面に大写しに……ああっ! 待って! だから帰らないで! もうちょっと! もうちょっとだけブラウザ閉じるのを止めて!

主人公たちがアイドルなのはとても重要な理由があるんだから!


 秀逸なるその戦闘システム
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このゲームはRPG、主人公たちはごく普通の高校生……だったり、アイドル見習いだったり、すでにレギュラー番組を持っている中堅だったり、もしくはほとんど一流の粋に到達していたりする子、だったりする。彼らは「ミラージュ」と呼ばれる別世界の英雄たち(ファイアーエムブレムシリーズのキャラのこと)の力をその身に宿し、邪悪なる敵のミラージュと戦っていく。戦闘システムは今ではやや古典的な部類になりつつある、素早いキャラが優先的に行動していくコマンド式ターン制バトル。

 本作の肝となる戦闘システムは恐るべき完成度の高さだ。主人公たちや敵には、10属性分の耐性が割り振られている。弓と火や雷が弱点だったり、氷や剣、衝撃が弱点だったりと、必ず10属性のうちどれかが弱点になるようになっている。主人公たちは固定ではなく、装備する武器によって弱点や耐性がかわる。その弱点を攻撃スキルでつくと、その攻撃に応じて他のキャラが「セッション」して、追加攻撃を行うのだ。しかもこのセッションは一度切りではなく、キャラクターの習得スキルに応じて2つ目、3つ目と、どんどん繰り返し放たれていく。さらには物語が中盤になると、戦闘に出ていない控えのキャラもこのセッションに参加できるようになっていく。そうすると攻撃は多彩に広がっていくことになる。

 プレイヤーとしては敵の属性を見定め(一度攻撃した属性は記憶され、攻撃時に再確認が容易になっている)、どの弱点をどのスキルで付けば効率的なのか、悩めるようになる。逆に敵も、こちらのキャラの弱点をつけば、それはセッションとなり連続攻撃となってピンチに陥ることになる。敵の攻撃にあわせて手持ちの武器を変える必要があるかもしれないし、場合によってはあえて強い武器から弱い武器に変えた場合が有利な状況もあるかもしれない。

 しかもこのゲーム、バフ(能力強化)、デバフ(弱体化)といったパラメータ操作系が非常に強力だ。命中率ダウンを受ければ体感で1/3くらいしかヒットしないし、毒でも受けようものなら、毎ターン体力の1/4近くがごっそり減らされる。仲間のデバフを打ち消すか、それとも残り少ない体力の敵を先に倒すか、キャラの行動順を見ながら考える必要がある。
 プレイヤーが悩み、考え抜いて対応した分、ダイレクトにそれは戦闘に反映される。こちらのデバフが上手く敵に突き刺さり、ガンガン回避できるようになるかもしれない。相手の繰り出す攻撃がこちらの耐性属性かもしれない。こちらのセッションが7連続で相手に突き刺さり、余波で二体目のミラージュも倒してしまうかもしれない。主人公たちが戦闘ステージを駆け回り、攻撃をスピーディに繰り出す様はまさしくアイドル。そう、主人公たちはアイドルなのだ。戦う場所はステージ上で、観客たちが歓声をあげる。入場するときには変身シーンを見せながら、勝利を決めればそのフィニッシュを決めたキャラにカメラが動いてポーズを決めてみせる。彼らはアイドルらしく、見てる我々を楽しませることに全力だ。観客が湧けば湧くほど、その分戦闘が有利に働いたりもする。

 主人公「たち」がアイドルというわけ そして「主人公」がアイドルではないわけ


 さて、ここまで読んで「なぜここまでしてアイドルゲーに仕立てる必要があったのか?」と思う読者も出てくるだろう。ゲーム内にその答えが用意されている。かいつまんで言うと、そもそも「芸能」とは、神降ろしの儀式であり、神聖なものだったと。それ故ミラージュなる異世界の英雄の力をその身に宿し、力を発揮しうる器としてふさわしいものだったという話だ。それらの器たるキャラクターには、それぞれのアイドルを目指す動機づけがある。幼馴染、織部つばさはアイドルであった姉を超えることを夢見てトップアイドルへの階段を登っていく。親友の赤城斗馬は少年との約束を守るがために自身の憧れであった特撮ヒーローの主役を目指す。他のキャラクターもそれぞれが夢をもっており、それを実現するがためにアイドルの頂点へと目指している。そして何よりも、「皆を、勇気づけたい」という動機がそれぞれのキャラクターの根源にある。アイドルとはミラージュの器であり、同時に敵ミラージュの影響で不安や怯え、無気力となってしまった人々を照らす象徴でもあるのだ。そう、敵ミラージュは、人々の精神を狙っている。それによって多くの人達が夢を忘れ、意欲を失っている。ストーリーの中で、主人公たちは敵パフォーマに精神を蝕まれた人たちを助けにいく。そう、アイドルとはなにか。人を勇気づける象徴だ。それならば、敵ミラージュを倒し、そこから開放して光をもたらすのも、一流のアイドルとしての使命じゃないか! このゲームがアイドルゲーである理由はまさしくそれである。「アイドルに、一流のアイドルになりたい」という彼らの最終的な目標は、「人々を不安に貶めるミラージュを倒し、勇気と希望で照らし出すこと」なのだ。


 ところが一つ大きな問題がある。それは本作のメイン主人公、蒼井樹はアイドルではないのである。彼は幼馴染織部つばさや親友赤城斗馬のことを応援してはいるものの、本人は別に芸能界に憧れがあるわけでもなく、芸能界に無知である。彼は半ば偶然に、ミラージュの力を得て芸能事務所に入る羽目になったが、あくまでマネージャー的立場でしかない。彼の原動力は「友達を守りたい」といったとても小さな、身近なもので動いている。アイドルになりたいと思ったことすらない彼が、なぜ本作の主人公なのか。結論からいえば、彼はアイドルだからである。

 彼は幼馴染や親友が、夢に向かって走っているのを応援している。時折彼らが戸惑ったり、道に迷ってしまった場合は、そっと背中を支え、静かに答えを教えてあげる。彼らにとって進むべき方向を指し、そして今までやってきた努力を見てきたからこそ言えるセリフで、彼らを勇気づける。「大丈夫、きっとできるよ」。たったこれだけのセリフなのに、蒼井樹がいう言葉には強烈な説得力がある。そう、まさしく蒼井樹は、アイドルを光らせる、アイドルのアイドルなのである。彼は仲間たちが、真のアイドルたらんとして頑張っていることを知っている。だからこそ、仲間たちを勇気づけられる存在でありたいと願い、そしてそうなっていくのだ。最終的に仲間たち全員が蒼井樹に勇気づけられ、夢を叶えていく。そして最後の決戦に向かう時、自信を持って蒼井樹と並んで進むのだ。


 もうひとりのアイドル


 この世界には、世界を照らすアイドルたちがいる。そしてそのアイドルのアイドルたる蒼井樹がいる。さて、蒼井樹にとってのアイドルとは誰だろうか。そう、それはこのゲームをプレイしているプレイヤー自身、貴方のことだ。貴方は的確に戦闘の指示を行い、コミニュケーションの選択肢では好感度が増減する。蒼井樹は確固たる自我がありながらも、その一部に貴方の意思を宿してこの世界の魅力と、危機と、そして仲間たちの笑顔を見せてくれている。このゲームはアイドルゲーである。アイドルによって世界が光り輝くのと、アイドルたち自身が魅力いっぱいで動く様を特等席で見ることができる。エンディング、蒼井樹らは今まで共に戦ってきたミラージュ、クロムたちと別れることとなる。クロムは元の世界に戻り、新たなる戦いに向かうことに鳴る。そして樹たちも、この世界でアイドルとしての道を歩み続ける。樹たちはクロムとの別れを体験するのとほぼ同時に、プレイヤーとの別れを体験する。たとえ樹とクロムが離れていても、強い絆で結ばれているのと同じように、このゲームがエンディングを迎えたとしても、貴方が感じ取った樹との絆は、とても強固なものになっているだろう。貴方は笑顔で、樹の背中を送り出すことができるはずだ。

 今作はWiiUのみの発売で、現在移植はされていない。レアソフトでもなんでもなく、中古屋にいけばWiiUと一緒にセットで容易に買うことができるだろう。是非、WiiUとともに購入してプレイしてもらいたい。最高に輝くアイドルたちがそこにいる。

WiiUという素晴らしいゲーム機

みんなWiiUは知ってるかい? 任天堂が作った最新の据え置きゲーム機だよ。
なんとコントローラーと画面が一体化していて、テレビに映しながら遊ぶこともできるし、手元の画面を見ながら遊ぶこともできるんだ! テレビがいらない据え置きゲーム機なんてスゴイよね! 画面はとってもきれいだよ!
面白いゲームもいっぱいさ! マリオカートに、スプラトゥーンに、ゼルダがあるよ。ゼルダの面白さはここに書こうとすると2万字を超えそうになるからやめておくよ!
さあみんな、AMD-Radeon搭載のWiiUを買おう! 買っていろんなゲームで遊ぼう!

あ? 何? それだったらもっと新型で良いのが出てる? だめだめ、お母さんAMDじゃないのは許しませんよ! 

まあ任天堂のことですからAMDを裏切ってNVIDIA搭載した新型機をだすなんて狭量な真似はしませんよね! きっと! HAHAHAHAHA!!!