平和的なブログ

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高橋ソーカントクの言葉に首を縦に振りすぎてもげた話と、「アルナムの牙」の話

 みんな働いてますか?(挨拶)
 さて、先日話題になった記事ですが、モノリスソフト開発スタッフを募集中とのことです。知らない人向けに解説すると、モノリスソフトとは任天堂の子会社で、RPGゼノブレイドシリーズ」を作っている会社です。中の人達も今までRPGをとにかく作ってきた人たちばかりで、取締役である高橋ソーカントクは元々旧スクウェア(現スクウェア・エニックス)でFFシリーズに携わり、ゼノギアスを作った人(ディレクター兼脚本家)であります。
 そんな彼が上記のスタッフ募集で凄いことを言っています。
ロールプレイングゲームの要はマップです。
>シナリオなどでは決してありません。

 しびれました。RPGを作り続け、脚本も作った男が言い放った重みのあるセリフです。そこまでやった男が「シナリオはRPGの要ではない」と言ったのです。あまりに感銘を受けたので首をぶんぶんと縦に振りすぎて頭がもげました。もげてないです。いややっぱりもげたかもしれません。
 そうです。そうなんですよ。シナリオはRPGの要にはなりえないんですよ。RPGで「飛び抜けて優秀なストーリー」だけど「平凡なマップ」「退屈なゲームバランス」であった場合、どうなるでしょうか? 一つ例をあげて解説しましょう。今回のブログのテーマは、1994年にPCエンジンスーパーCD-ROM2で発売された、「アルナムの牙 獣族十二神徒伝説」です!

 このゲーム、三人パーティで進み、主人公ケンブ以外の二人が入れ替わることで戦略性が生まれるオーソドックスターン制RPGです。主人公らは生粋の人間ではなく、半分獣の血を受け継いたような「獣人」で、その力を開放することで特殊能力を発揮する……というようなもの。ところが彼らはその獣人であるがゆえ、生粋の人間たちからは差別される立場であったりします。「卑しまれた者たち」として蔑まれる存在でありながら、同時に人間たちへの奉仕(肉叢という名のモンスターが各地に現れたので、それの退治を任された)を強要される羽目になります。
 主人公ケンブは自らの過ちで仲間たちを肉叢に殺されてしまい、それに対する復讐と自責の念により、奉仕へ向かうことになります。先々で向けられる人間たちの侮蔑の念。同時に「自分は人間だ」という意識と、強すぎる自らの獣の力。悩み、苦しみながら前に進み、そしてついにこの世界の真実、自分たちの存在の本当の意味を知るのでした……。という、ストーリー。
 このゲーム、94年とPCエンジンの円熟期を過ぎたあたりに発売されたのですが、それもあって恐ろしく美麗なグラフィックと、迫力あるムービー、上質なサウンドで構成されています。キャラデザはあの木村明広で、表情は多彩だわ格好いいわヒロインも可愛いわと高得点。そして先に述べたストーリーの完成度も高く、後半の怒涛の展開は結構な衝撃が続き、主人公ケンブの「俺は獣なんかじゃない。……人だから。だから、苦しみながら生きていかなきゃいけないんだ」というセリフで私は泣いていました。

 『ん? このゲームのことめちゃくちゃ褒めてない?』と思った皆さん、ちょっとお待ち下さい。このゲーム、致命的なのは「ビジュアル・ストーリー・音楽以外の全ての要素が全部駄目」ってことなのです! 
 例をあげましょう。このゲーム、バランスが崩壊しています。なにせイベントで手に入る最強武器よりも、その一個前に使ってた武器のほうが絶対に強いです。ロトの剣よりも炎の剣のほうが強いドラクエ1みたいなもんです。なんだそのバランス。
 敵とのエンカウント率は異常に高く、数歩歩いただけでエンカウント。また、敵とのレベル差によって逃亡率が大幅に減少する仕様なのですが、これがまた絶妙にずれていて『楽に勝てる相手なのだけど、レベル的には敵のほうが強いことになってて逃げるに逃げられない』なんてことに陥ります。怒涛のエンカウント率と相まってストレスの相乗効果を生み出します。
 そしてマップ! 基本ダンジョンは分岐点多数行き止まりに宝箱、かつ中身は薬草クラスというイライラっぷり! 分岐点が気になって戻って確認してもその労力が報われることはありません。このイライラ構成は最後まで一貫しており、スタッフの執念が垣間見えることでしょう。しかもなんとヒントとなる街の看板やセリフが間違っていることがあり、北と南、東と西が違っているという有様。さあ、迷子になっているうえにエンカウント率の高いフィールドでもがき苦しむがいい!
 また、悲劇的なのがCD-ROMの生産工程によりバグが発生したらしく、とにかく到るところにバグが眠ってるという悪夢。キャラ絵が入れ替わり、特定のスキルを使うとフリーズし、最悪の場合はセーブ一つなのにバグで進行不可に陥ってしまう可能性も(私は幸いにも発生しませんでした)。
 とにかく突っかかるところが多い点が災いし、「もう一度最初からプレイしたい」という欲求が起こらない仕様となっています。

 その結果、どうなるのでしょうか? 私は一度だけクリアしたことがあるのですが……なんと、ストーリーをさっぱり覚えておりません! いや、あの、感動したのは事実なんですよ。でもなんで感動したのか、さっぱりわからないんです。それでですね、それでですね! 「やりなおして確認しよう」って気にはさらっさらならないんですよ! 勘弁して下さいよマジで! 苦行みたいな代物ですよ! そんなことしてる暇あったらメタルギアサヴァイブのCoop行きますよ!
 ストーリーは覚えていないのに、ゲームバランスが苦行であったことは明確に覚えているという悪夢。ゲームにとってこれほど屈辱的なことがありますでしょうか。プレイヤーとしても結構屈辱であることは違いありません。
 今一度、高橋ソーカントクの言葉を思い出してください。ロールプレイングゲームの要は、ストーリーではないのです。マップです。上質なストーリーも、高品質なグラフィックも、澄んだサウンドも、核を固める要因にはなりえても、核そのものにはなれないのです。
 もし貴方が「このRPGすごく面白かったよ! 特にストーリーが感動もので!」といえた場合……それはストーリーが面白かっただけではないのでしょう。マップの構成が上手く、ゲームバランスも良好だからこそ、貴方は自信をもってそう言えたのではないでしょうか? 
 貴方がゲームのストーリーに酔いしれることができるその下で、ディレクターやデザイナーが全力を注いで作り上げたマップが、そのゲームプレイを支えているのかもしれませんね。