コナミデジタルエンタテインメントの社員数推移から過去を推察
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この数字の羅列が何なのか、わかる方はおられるでしょうか? これは2013年から2017年までの、コナミの各セグメントの社員の合計数の推移です。2014年で一時期最高数を誇っているものの、そこから二年でなんと1000人近い社員がやめたことになります。比率でいえば1/5。買収された後に大量リストラを行ったシャープよりもさらに多いという具合です。
これだけを見るとなにかとんでもないことがコナミに起こったように感じられます。しかしコナミはスポーツクラブやカジノ、アーケードゲームに家庭用・ソーシャルゲームと、多方面に展開する企業です。今回の記事は有価証券報告書を元に、一体どこで、何が起こっていたのかを探ろうとする内容です。あくまで表に出ているだけの数字・資料を元にしており、後は私の「こうなのではないか?」という予測を多分に含んだ記事内容になっていることは間違いありません。あくまでその点をお忘れなきようお願いいたします。
2013年時点でコナミのセグメントは以下のようになっています。遊戯王・ソーシャルゲーム・家庭用ゲーム・アーケードゲームを取り扱う部門の「デジタルエンタテインメント」。スポーツクラブの「健康サービス」。カジノ関連の「ゲーミング&システム」。アーケードゲームの筐体の製造を取り扱う「遊技」。このうちの遊技部門は2017年に、遊技部門の下請け会社である高砂販売を買収した後、デジタルエンタテインメントのアーケードゲーム部門を移転させ新たに「アミューズメント」部門を創設しました。そのためデジタルエンタテインメント部門の社員が多数アミューズメント部門へと移り、一気に社員数が激減しています。
なのでカジノ部門や健康サービス部門を除いた、デジタルエンタテインメントとアミューズメントの社員数(アルバイト除く)の合計の推移を見てみましょう。それらは有価証券報告書で見ることができます(興味のある方は是非こちらから実ソースを見てください)。以下の通りになります
DE AM 合計
2013年 3002 468 3470
2014年 2903 515 3418
2015年 2510 451 2961
2016年 2161 314 2475
2017年 1659 807 2466(←アミューズメント部門新設)
驚くべき数字の推移になっているとわかるかと思います。とにかく2015年、2016年の社員数の減り方が異様に思えます。いったいどんな事情があったのでしょうか。外からは伺うことができませんが、その原因の一端を転職サイトの口コミから見ることができます。2010年ごろから契約社員へと移行する動きが見られ、1年ごとの契約更新をするように体制を変え、そして2015年、2016年に大量に契約打ち切りを行いそれが社員数の大幅減少に繋がりました。(ちなみに2015年に「経営悪化を理由に契約更新を見送られた」という口コミもあったのですが、今再確認できない状況になっています)
このあたりのデジタルエンタテインメント自体の動きを家庭用ゲームの発売履歴から見てみることにしましょう。3DSの発売タイトルは2014年3月のNewラブプラス+から、2016年12月のパワプロヒーローズまでありません。PS4では毎年出ているウイニングイレブン、二年おきにでることになったパワプロの他は、2014年3月のMGSG:GZ、2015年9月のMGSV:TPPのみ、という状況です(メタルギアシリーズのスピンオフとして発売されたメタルギアサヴァイブは2018年2月発売です)。
ここで大切なのは、「ゲームソフトはすぐに発売することはできない」ということです。2014年の大量の人員が契約打ち切りを受けた背後では、「新規のゲーム制作立ち上げが進んでいなかった」ことが推察できます。3DSのソフトや、ウイイレ・パワプロ・MGSといったコナミの王道IP以外のゲームはここで凍結されたことが伺えます。
理解が難しいのですが、ここでMGSブランドの流れを見てみましょう。当時メタルギアシリーズを作っていた小島プロダクションはデジタルエンタテインメントの中のさらに一部門的存在です。2013年にはロサンゼルススタジオを新設するくらいの優遇ぶりです。2014年には小島監督がエグゼクティブコンテンツオフィサーとして執行役員副社長(現場でのトップ)にまで就任しています。このときはまだ小島プロダクションを優遇し、家庭用市場に意欲的だったであろうコナミも、2015年のMGSV:TPPを発売するころには小島プロダクションを統合してしまい、社員のリストラに及んだ……。そういうことになります。
コナミデジタルエンタテインメント社長は2014年7月まで田中富美明氏(創業者上月景正会長の娘婿にあたります)でした。小島監督が2014年7月に副社長に就任する際、上月拓也(上月会長の実子です)氏が社長に就任します。そして間をおかず2015年4月に早川英樹現社長にかわり、同時に小島監督は副社長から降りています。
田中社長がロサンゼルススタジオ新設などの采配を振るい、小島監督を優遇する流れを作った後、上月社長時代になにかがあり、小島監督の優遇をやめ一部門に戻すことを決めてしまい、早川社長に変わった、のでしょうか? しかし小島監督当人からは「新人時代は別として、会社から何かをしろと言われたことはありません。あくまで自分からの提案で、こういう狙いで、こういう時期に、このくらいの人材で、こういう未来を見据えて、こういう作品を作らせてくださいと言えばやらせてもらえた。在籍した最後までそうでした。それがあったからこそ今の自分があります。」と、コナミへの非難どころか、感謝の言葉がでているという具合です。この言葉を信用する限りは副社長を降りたあともきちんと作らせてもらえていたように思えます。(それどころか円満退社に見えます)
大まかにいうなれば、2013年からはウイイレ・パワプロ以外の新規のゲーム制作立ち上げをしないかわりに小島プロダクションへ全力投球、人員集中……をしていたはずなのに、2015年には小島プロダクションを統合(この時小島監督自身も副社長から降りています)してしまい、さらにリストラも進めてしまい、小島監督自身もコナミを退社する、というかなり不味い流れになってしまったというのがわかります。
コナミの有価証券報告書にはこのような文言があります。デジタルエンタテインメントへの収益性の向上と成長分野での経営資源投入の欄で、「多様性・グローバル化が求められる中、より選択と集中を行い最適な経営資源の投入を図ってまいります」というものです。この文面自体は2009年(第37期)から書かれてありますが、コナミデジタルエンタテインメントはこれに失敗していたのではないか、と思います。以下の画像を御覧ください。(元ソースはこちらからどうぞ)
2011年からのコナミHDの売上と純利益の推移です。これらにはスポーツクラブ・カジノの売上も入っているのですが、デジタルエンタテインメントとアミューズメントの売上で概ね7割を越えるので、そう印象とずれることはありません。2012年をピークにぐっと下がっていることがわかります。そのまま低迷がしばらく続くなか、ふらふらとした「選択と集中」を行っていったのではないか。私はそう思います。
経営的な視点では取締役ではない、執行役員の一人である小島監督には責任がありません。当時の取締役が何を思って判断を下したのかはわかりかねます。ですが結果だけを見たらそれは失敗(しかも大がつく方の)だったのではないか、そう思えてなりません。
2015年に早川社長の就任、小島監督の退社という大きな転機を迎えたコナミデジタルエンタテインメント。苦境に陥ったこの会社の改革はIPリブートから始まりました。ボンバーマン、Z.O.E ANUBIS、桃太郎電鉄(仲介役として任天堂がいますが)、3DSパワプロ(パワポケではありませんが)をリブート、その他派生としてボンバーガール(部門はアミューズメント側)、ときめきアイドルを生み出し、その他武装神姫、ラブプラス、ハイパーオリンピックシリーズ、悪魔城ドラキュラ(アニメとスマホ版)を開発中な上、先日のE3では魂斗羅新作と、PCエンジンミニを発表しました。
個別のタイトルを上げるほか、社員数の推移を確認しても変容がかわってきます。2017年には2466人だった社員数は
DE AM 合計
2018年 1749 793 2542
2019年 1853 831 2684
と、あきらかに上昇傾向にあります。売上・利益も過去最高をこの二年で連続達成しています。早川社長のリブート策はうまくいったように思えます。しかし細かなソフトの様相を見ると、発売日時点でバグが多く残ったまま(ボンバーマンRはゲームエンジン側の問題ですが)だったり、発売日未定のまま音沙汰がなかったり、明らかに開発リソースが足りていない状況です。
コナミデジタルエンタテインメントは改善傾向にあります。ですが1コナミファンとしては、より開発力の強化をお願いする他ありません。2018年にコナミデジタルエンタテインメントは開発スタジオが新設しました。このまま是非とも開発力の強化を続けていってほしいと願ってやみません。
最後にこの言葉をもってこの記事を締めたいと思います。PCエンジンミニの発売、本当にありがとうございます。