平和的なブログ

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ウルトラマンタイガ・レビュー

 映画「ウルトラマンルーブ セレクト 絆のクリスタル」見ました。これが面白かったんですよ。
 ウルトラマンニュージェネレーションズのレビューにて私はルーブのことを「特撮面においては比類ないレベルにまで昇華したものの、脚本に問題点を抱えた」作品という評価を下しました。この映画版は本編の一年後を描いた後日談ですが、いやいやなるほど、イマイチ踏み込めていなかったキャラの設定や魅力を逆に利用して、ぐぐっとキャラの魅力を引き出すことに成功しています。あまりキャラが立っていたとは言い難い兄弟の、兄カツミに焦点を当てウルトラマンか、湊カツミか」という自問自答をするようにし「湊カツミのやりたいことは何なのか」「俺の夢はいったい何だったのか」という問いをさせています。

 そしてその悩みに明確な答えを出すことはできないとしても、一歩ずつ着実に、翼ではなく、自らの足で進んでいくしかないんだという答えを自ら見つけ、湊カツミとして怪獣化してしまった親友を助け出し、ウルトラマンとして別の星のピンチを助けることもできた…というエンドに繋げました。


 本編のイマイチ消化不良だったエンディングとは打って変わってスッキリした、素晴らしいエンディングだと思います。これを持ってウルトラマンルーブの話は一つ終わりを迎えることができました。とある弱点を除いて。




 さて、いきなり脱線した話題から入りましたが、今回はウルトラマンルーブの後番組、ウルトラマンタイガ」のレビューです。
 いや、しかし素晴らしい! 毎回進化し変化し驚かしてくれるウルトラマンシリーズの特撮がまた新たな領域に到達しました。




「敵主観でロックオン攻撃をしかけるもスピードスターのウルトラマンフーマを捕らえきれず的確にカウンターを仕掛けられるカットシーン」


ウルトラマンタイタスがぶん殴った敵怪人が吹き飛びながら態勢を整えつつ地面に着地するのを見上げるローアングル」だの


ウルトラマンタイガがバックドロップで放り投げた怪獣が人々の頭上を大きく飛び越えてビル群の向こうに沈む」など



斬新な視点から怪獣とウルトラマンの戦いを見ることができ、その臨場感はとてつもないレベルです。ウルトラマンが一歩進めばアスファルトがめりこみ、車は大きく弾むのです! 




 また、ウルトラマンが三人編成なのも特徴です。タイガはウルトラマンタロウの息子、無鉄砲だけれどどこか品の良さを感じさせる若者ウルトラマンで、マッチョのタイタスは理知的で冷静だったりします。フーマはタイガに負けず無鉄砲で荒っぽく、同時に義理堅い性格で、この三人が主人公ヒロユキの体の中に入ってわちゃわちゃと漫才のようなやり取りをしています。
 タイガの「正義感で熱血漢で、けれどもまだ未熟者」という特色はとても小気味よいキャラに仕上がっています。今作の良エピソードとして上げることができる「夕映えの戦士」で、かつてウルトラマンと戦ったことがあるナックル星人は敗北後、善良な宇宙人として姿を地球人と変え、ヒロユキのよき相談相手として仲良くなりました。しかしヒロユキがウルトラマンタイガと一体化し、怪獣や侵略者と戦うのを目の当たりにしたとき、そのナックル星人はかつて戦士だった誇りを呼び戻してしまいます。そしてその誇りゆえ、ウルトラマンに、ヒロユキに戦いを挑みそして……。
 戦いのあと、嘆くヒロユキにタイガは何も言えないまま話は終わります。ヒロユキも若く、タイガもまた若い未熟者。これらの苦しさに答えを出すことも、飲み込んで済ますこともできない…という話でした。現在、AmazonPrimeで見ることができるので是非見ていただきたいです。



 困ったことにこれ以降褒めるところが急速に少なくなるというのが、このウルトラマンタイガという作品の特徴です。


 ウルトラマンタイガはウルトラマンルーブの「特撮面においては比類ないレベルにまで昇華したものの、脚本に問題点を抱えた」という評価をさらに加速させたような作品に仕上がっています。とにかく脚本がとっちらかっていて何がなんなのかわからないまま物語が上滑りしている印象をもってしまいます。
 タイガがウルトラマンタロウの息子、という要素が本編で全然活用されていないのはまだ許せます。それはいいのですが、1話の冒頭でいきなりやられたタイガが、再登場したときに「銀河に平和をもたらす光の巨人」と称されたのを見ても、「いや、冒頭でやられて散ってますよ!?」ってなりますし、ヒロインのピリカが出会った少女と秒で親友になるけどその少女は実は侵略者の手先だったのが秒で発覚! とやらされても、展開が早すぎて衝撃はありません。そもそもピリカというキャラがなんなのかよくわからないままそのエピソードに突入してしまっています。


 この「キャラの掘り下げが進む前に物語展開が進む」というのは結構深刻で、主人公ヒロユキもイマイチどういうキャラなのかピンとこないままウルトラマンタイガとなる流れになってしまっています。ストーリー的には「一度依頼を受けたら依頼人は絶対に守る」というシチュでヒロユキの熱血ぶりをアピールしているんでしょうが、それが滑るのは演じる役者の演技力から生じるものなのでしょうか。演出がイマイチだからなのでしょうか。
 ウルトラマンタイガは人物描写を致命的に失敗してしまった、というのが私の評価です。レギュラーキャラの中で「実は○○○だった!」という展開をもつキャラが一人いるのですが、そのキャラを好きになるエピソードや展開があるわけでもないので「ふーん……」で私の中で済まされてしまいました。そもそもレギュラーキャラの中で踏み込んでキャラを描写できたと言えそうなキャラは頼れる先輩ホマレくらいなのです。(そのホマレ先輩もキャラにブレが生まれていて言動の一貫性に腑に落ちなかったりしますが……)



 人物描写の失敗は急ぎ過ぎた脚本と、イマイチ演技力が冴えないキャストの二重の問題が原因ではないか、と思えます。変身する際、クレナイガイの「光の力、お借りします!」という叫び、リクのジーっとしてても、ドーにも、ならねぇ!」という叫び、そして私がイマイチ脚本にのれなかったルーブの兄弟変身でも「俺色に染め上げろ、ルーブ!」という叫びは魂すら震える格好良さがありました。
 しかし今作の変身シーンは、なんというか、力が抜けるというか、テンションの上がり方が半端に終わってしまうようなものです。ヒロユキ役のキャストが新人さんという仕方ない面もあるでしょう。(クレナイガイ役の石黒英雄さんはかつて平成仮面ライダーのラスボスを演じたこともあるベテランで、朝倉リク役の濱田龍臣さんは子役時代からもこの世界で演じている大ベテランです)
 しかもヒロイン、ピリカ役も諸事情により撮影が始まった後急遽役交代があるピンチヒッターなのです。
 そういった要素が足を引っ張ってしまい、視聴に問題が出てきてしまったのではないか、と考えます。



 そして、なにより、今作の最大の問題点。かつ劇場版ウルトラマンルーブの問題点。そう、ウルトラマントレギアです。

 このウルトラマントレギア、劇場版ウルトラマンルーブに登場する悪のウルトラマンなのですが、「光の国唯一の犯罪者」というウルトラマンベリアルの設定を崩してまで登場させたにしてはあまりに描写が浅すぎます。
 
 なぜ光の国出身の彼が闇に身を落としたか、彼の目的は、理念は、理想は。そういったものが全く描写されません。
 もちろんあえて描かないことで魅力的に描くということも出来るでしょう。映画ダークナイトの悪役ジョーカーは自身の語られる過去が毎回違うことで不気味さと底知れなさを描写していました。ジョーカー自身が語ることすら本当とは限らない、まさしくジョーカー的存在として演出されています。


 しかしこのトレギアはあまりに半端すぎました。
 何をしたいのか明確に描写をすることなく、時折顔を出してタイガたちの邪魔をし、反撃されたらさっていく。圧倒的な力を見せるでもなく、かといって見事なやられっぷりを見せるでもない、飄々とした態度で物語をかき回すだけ……。タイガが新しい力に目覚めて見事トレギアを撃破した次の週も、何事もなかったかのようにいつもの態度で現れたときには「流石にお前いいかげんにせえよ」と思ってしまいました。ウルトラマンベリアルのような力を有する魅力もあるわけではなく、ゲゲゲの鬼太郎のねずみ小僧のような小悪党ぶりで魅力を出すわけでもない、なんとも微妙な悪役、といった具合です。

 一度だけ「光の国の生まれだからといって光の身に置かざるを得ない宿命に抗ってみせた」というすごくいい着地点を見出しかけたのですが、結局そこに落ち着かず話はどこかに飛んでいって消えていきました。もう少しなにか演出の仕方があったのではないのかな、と思います。


 トレギアとの決着はどうやら劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス」にて着くそうですが、残念ながらコロナ騒ぎの影響で現在公開が延期されてしまいました。私はおそらく映画をどうやっても映画館でみることはできないのですが、せめて巧いこと決着をつけて欲しいと願うばかりです。それこそ劇場版ウルトラマンルーブで、湊カツミの物語を上手く決着付けたように。