平和的なブログ

ゲームのことばっかり話してます。たまに映画とか。

確率と乱数と人の心 -ランス9 ヘルマン革命-

 いただきストリートというゲームがある。すごろくのような盤面でプレイヤー同士サイコロを振り合い、お店を買い株をやりくりし目標金額にいち早く達成したプレイヤーが勝ちとなるルールだ。
 非常に良くできていて対人戦でもCPU戦でも楽しめるゲームだが、一部悪評がある。それは「強いCPU相手はサイコロの目を操作するズルを行う」というものだ。最高ランクのCPUは狙いすましたかのように空白地に滑り込んだり、逆に絶対に止まってはダメなマスをするりと抜けて危険地帯を脱したりする。なるほど、ズルといわれてもしかたないかもしれない。
 ところがこの悪評、全くのお門違いなのだ。実はサイコロの出目はゲームスタートの時点ですべて決定しており、その状況ごとで生成しているのではないのだ。株や投資で状況が変わっても、サイコロの出目がずれることはない。つまりCPUが危険地帯をすり抜けたり、都合のいい空白地にぴったりと入り込むのは「人がそのときの記憶を強烈に印象づいてしまう」という理由なのだ。確率は1/6のまま変わっていない。

 
 これと逆のアプローチを仕掛けているゲームがある。ファイアーエムブレムシリーズだ。
 このゲーム、自分と敵キャラの素早さの差や武器の性能で命中率が算出されるが、実はこの命中率、表示されているのが90%であっても実は90%ではないのだ。実行命中率というニコニコ大百科のページをご覧いただければわかるが、90%と表示される命中率は実は98%オーバーで、命中率10%の場合はわずか2%に過ぎない。


 なぜこのような実装をしているのか? それは認知の差を埋めるためだ。どうしても当たると思っている攻撃が外れたときの印象のほうが強く残る。当たるはずのない攻撃があたっときの衝撃は忘れがたい。その実際の確率と印象との度合いを和らげるがため、表記と実際の確率をずらしているのだ。人間は常時数字を冷静に把握できるというわけではない。



 以上のことを頭の片隅においてもらって本題にいこう。今回のレビューはアリスソフトの有名シリーズ、「ランス9-ヘルマン革命-」だ。



 ランスシリーズについては前回のレビューで書いたとおりで特記すべきことはない。シリーズものの通り10の前作にあたり、ストーリーとしては、雪と氷に覆われた政治腐敗の結果疲弊と汚職が激しいヘルマン帝国を救うべく革命に立ち上がった男がいた。かつて国を追われてしまった皇子パットン。彼は国を救うべくかつて敵として戦った最強の男、ランスに助けを求める。ランスはランスでパットンのことを助けようなんて気はさらさらなかったものの、諸々の事情とかわいい女の子を求めて彼と行動をともにすることとなる。

 このゲームはエロゲーであるが、漢の描写がとてもうまい。


 理想のために戦うパットンもそうだが、パットンの傍ら、その理想を支えんとする親友ヒューバート。
 自国の限界と革命の正しさを理解しつつも自らの立場ゆえ敵として立ちふさがるレリューコフ。
 国と親友の革命のために命をかけて立ち向かうアリストレス。
 ただの助っ人という立場なのに関わらずランスと任務と己のプライドのために最前線で突っ込む赤い死神リック。


 終盤、敵の総大将がいる箇所へ突破する際、後ろから追手が仕掛けてくる。ドアの前にリックが立ち止まり、「ここは私におまかせください。貴方達は一刻も早く先へ!」というよくある展開が繰り広げられる。普段は今生の別れフラグが立つものの、ランスは男相手なのであっさり置いて先に行く。そしてリックは水を得た魚のように剣を振るいバッタバッタとなぎ倒す。そう、リックはこういう場面でこそ生きる男なのだ。敵の返り血で鎧が赤く染まりまさしく赤い死神の異名にふさわしい格好になるリックを前に、へたり込む敵兵の一人。「ダメなんだ……。ダメなんだよ。あいつは本当に止められないんだ……」と震える。そう、かつて以前のシリーズで同じような場面があり、足止めするリック一人に無数のヘルマン兵が倒されたのだ。それを知っているからこそランスはリックを一人で置いていったのだ。


 こういったシチュエーションをイベント戦闘ではなく、普通の描写としてしれっと読ませていく。ゲームとしての思い切りの良さが心地よい。

 イベント戦闘に頼らない描写は他にもある。かつて古代の自律型破壊兵器が敵の手によって復活し、ボディガードとして運用される。当然、プレイヤーとしてはこいつはどこかのボスとして登場するのだな、と認識するのだが、なんとこのキャラはイベントバトルではない地の文章で倒されてしまうのだ。しかし読み込ませる文章の上手さと演出の巧みさでプレイヤーのテンションがガンガン上っていく。判断の上手さの勝ちだ。



 説明の順番が前後するが、このゲームはスーパーロボット大戦ファイアーエムブレムと同じジャンル、ターン制戦術SLGだ。ターンが始まり素早さの高いキャラごとに行動をして攻撃をしかけ、戦闘ごとの目標を達成したらクリアである。キャラの個性は色濃く出ていてパットンは味方をかばう事ができ、ランスとリックはガンガン前線に出て敵を倒していけるアタッカーだ。必殺技も各自用意されていて、リックの必殺技は「お前はスパロボZZガンダムのハイメガキャノンか」と思うほどの広範囲高威力を誇る。後方支援に特化する弓使い、敵の装甲を無視できる魔法使い、攻撃力は低いものの回避力と移動力に特化したスカウト、といった具合に多種多様なキャラを使いこなしていく必要がある。


 基本的な作りは古のアリスソフトファンならママトト/ままにょにょシステム」だと説明すればわかるだろうか?(ラストバトルのBGMもそのアレンジだ)
 実のところ古典的ターン制SLGをベースにしているため、よほど破綻がなければ低評価にならないわけがない。なのだが、それに付随した新要素がいまいち理解に及ばないものが多い。


 例えば武器、防具の強化は資金をかけて行うのだが、少し面白いのが防具の強化を行っても装甲の数値強化はあくまで一時的なもので、一度攻撃を受けて減少したものはデフォルト値に戻るのだ。鎧に装甲を増してもその装甲が剥げてしまったら元の鎧に戻るようなイメージだ。なかなかちょっと他のゲームでは見られない。


 さらに独特なのが武器だ。これは完全に運で、成功すると1ポイント上昇し、失敗すると何も変わらない。強化にかかる資金は最初は少ないが、どんどん必要金額が跳ね上がる。失敗し続けると強化されないのに必要金額だけが上がることになる。この仕様は理解しがたい。背景で乱数調整が行われているらしく、最終的には確率が収束して同じ強化値になるようになっているらしいが、それならばいよいよこんなガチャを回さなければならない仕様になっているのがわからない。ただの手間だ。


 装甲について少し語ったが、このゲーム、減少するのは装甲だけではない。回避というパラメータが存在するが、敵の攻撃を回避するたびにこの数値が少しづつ減っていく。何度も何度も敵の攻撃を避けるとスタミナ切れを起こしてダメージを受けてしまう、というイメージだろうか? なんとなくわかる仕様だろう。
 それと並行して受け流しというパラメータも存在する。これは戦士系のキャラが剣を使い相手の攻撃を受け流すイメージだ。若干ダメージを受けてしまうが防御として機能する。これも何度も受けると減少していき、最終的には直撃を受けてしまうことになる。これもなんとなくわかる仕様ではあるまいか。
 そして最後、回避や受け流しもできずにHPが0になるといよいよもってキャラが戦闘不能……にならなかったりする。このゲームには根性というパラメータがあり、それによってHPが1で踏みとどまったりもする。根性があるキャラは二度三度と続けて踏みとどまることもよくある。ランスは特にこのパラメータが高いので安心だ。



 さて、困ったことにこれらのパラメータはもちろん敵も作用する。するとどうなるだろうか。相手のHPとこちらの攻撃力を見比べ、どの敵なら倒せるか予想する。大まかな予測は自動計算で○(当たれば倒せる)、△(倒せるときもある)、×(まず倒せない)の三段階で敵アイコンの脇に表示してくれる。敵は当然わらわらと出てくるので挑発もちのキャラで誘導しつつアタッカーを前線に送り攻撃をしかけて数を減らそうと…するが、回避が働いてスカっとミスる。○がついていても回避を見ていなかったこちらのミスだ。仕方ない。
 敵の回避が減ったので次の攻撃にトドメを……刺そうとしたところで受け流しをされる。これも仕方ない。受け流しというパラメータがあることは知っているはずだ。
 別キャラクターの攻撃でいよいよトドメ……としたところで、敵の根性で倒しきれない。さすがにもうここはミス云々では己の感情が済まされなくなってくる。


 このゲームはいうなれば「命中率99%の攻撃がミスりまくる体験ができるゲーム」になっている。自分の攻撃ターンには相手に○とついていても、それがまったく信用できない。とにかく回避と受け流しと根性とで敵がサクッと倒れてくれない。攻撃のたびにすべての敵キャラのパラメータを熟知しろという理屈だが、先も述べたようにこのパラメータはただの目安だ。実際に攻撃を行った際の命中率が表示されるわけではない。
 前述のファイアーエムブレムとも、いただきストリートとも違う別次元のアプローチを仕掛けプレイヤーを困惑させることに成功している。プレイをし続けるたびにふつふつとゲームと乱数に小馬鹿にされている気分になれる。こんな仕様にするのなら、回避率、受け流し率、根性復活率を随時表示すべきではなかっただろうか? プレイヤーはファンネルを切り払われるとムカつく習性があるのだ。


 救済措置として魔法使いの攻撃はすべての判定をスルーしてあたるというものがあるが、これも問題になっている。最終章を除けば自軍の魔法使いは2人だけ。しかし敵は無関係にどんどこ魔法使いを出現させる。討ち漏らせば即ランスやパットンが倒れる羽目になるだろう。このあたりのバランス取りを放棄しているのが見えて心苦しい。


 総評としては物語は◎、ゲームシステムとゲームバランスに難がある、という評価にならざるを得ない。しかしこのゲームシステムはランス10と比較したらまだ理解できうる範囲内に留まっているし、ゲームバランスもキレてアンインストールする羽目にまでは至らない。


 なお肝心のエロ要素に関しては『紳士的な執事になる薬を事故で飲んでしまいヒロインに対して理想の執事として接することになるランスだが、風呂の世話をしている最中に欲望が薬を上回ってヒロインに襲いかかる』という大笑いできる展開があったので是非見てほしい。