平和的なブログ

ゲームのことばっかり話してます。たまに映画とか。

プラチナなのは社名か、品質か -アストラルチェイン-

プラチナゲームズという会社がある。
劣化せず非常に安定しているプラチナのように、高品質で劣化しないゲームを提供しようとする思いを詰め込んだ社名だ。
そしてこのご時世にもかかわらずマルチ抜きのシングル向け高品質アクションゲームを作りづつけているクリエイター集団である。
彼らが作ったベヨネッタ2The Wonderful 101は私の中でもお気に入りのソフトに入る。退屈しないQTE、アクションゲーム素人でもどうにかなるレベルデザインと難易度調節。プラチナゲームズ「キャラを格好良く操作して敵をバッタバッタとなぎ倒す」感覚を与えてくれることにおいて恐ろしく高水準にある会社だ。

そんなプラチナゲームズが開発したのがSwitchにて2019年発売された「アストラルチェイン」だ。



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主人公は近未来の世界に住む特務部隊の一員で、レギオンと呼称される生体兵器を扱い異世界からの侵略者、人類の敵であるキメラとの戦いに双子の姉弟と仲間と共に身を投じることとなる。
ジャンルはもちろんアクションゲーム。このゲームの売りは主人公と、レギオンとを別個に動かすデュアルアクションだ。左スティックで主人公の操作、右スティックでレギオンの操作を行う。レギオンは敵に近寄れば自動的に攻撃してくれるし、ボタンでターゲットした敵にけしかけることもできる。また主人公は三種の武器(警棒、大剣、銃)を操り、レギオンも5種いるため、それぞれの種類を敵と状況に合わせて切り替えていくのが必須スキルになっている。



主人公とレギオンは一本の特殊な鎖で繋がっていて、これが様々なアクションを生んでくれる。
ギオンを操作してぐるりと敵の回りを囲むと敵は光の鎖で拘束され一定時間身動き取れなくなる。その間、連続攻撃は叩き放題だ。
また遠く離れたレギオンの元へ瞬間的にジャンプする能力、チェインジャンプが存在する。そのジャンプしている道中に存在する敵に主人公は自動的に斬撃を繰り出していく。
さらには突撃してくる敵を左右に避け、この鎖で受け止めると主人公とレギオンの連携攻撃が自動的に発動する。

このゲームは回避とレギオンの活用が大事だ。如何にして敵の攻撃をかわしカウンターへと繋げていくか、その導線がしっかりとある。プレイヤーは敵の攻撃を見切り、どのスキルを活用して撃破するかを試行錯誤する。そのトライアンドエラーにきちんとこのゲームは堪えてくれる。燃えるBGMの中(私のオススメはAwakeningです)、君が操る主人公はレギオンと共に格好良く敵をなぎ倒してくれるだろう。


こう読むと非常に難しい要素ばかりに聞こえてしまうかもしれないが、意外にガチャガチャ操作をしてもなんとかなるデザインになっている。「レギオン射出」→「レギオンの元へとチェインジャンプ&攻撃」→「そのままコンボ攻撃」という流れはすぐ慣れて簡単にできる操作だし多少の操作ミスをしても繋がってくれるのが嬉しい。




このゲームは戦闘パートと、サブイベントが満載の捜査パートの二つが折り重なっている。
主人公は特務部隊という設定上、近未来の都市で起きた事件を捜査し、人々の証言や事件現場の再現をしながらその背後にいるキメラの動きを察知し、キメラの住む異世界に突入して人を救出したりキメラと戦ったりもする。
捜査パートの中に唐突に戦闘が入ったりするし、メインの捜査とは別にある細かな事件を解決したり、街の人の頼み事に答えるサブイベントも捜査パートに組み込まれている。捜査パートの最後には今までの証言を重ね合わせて事件の背景を探るファミコン時代の探偵アドベンチャーチックなものが用意されている。


ストーリー的にもキメラの正体の謎、特務部隊司令官の不気味さ、謎の女科学者の存在、そしてレギオンをあまりに自由に操れすぎる主人公自身の謎を絡み合わせ進んでいく。特務部隊の仲間たちや双子の姉弟と共に戦いに挑んでいく展開はまるで少年漫画のようだ。章仕立てで構成されており、一章を終えるたびに謎が一つ解け、また一つ謎が増える。少年漫画らしく「ここは俺に任せて先に行け!」という展開が待ち構えていたり、主人公の隠されていた力が覚醒して攻撃が効かなかったはずの敵を一気に叩きのめしたりもするぞ。



こうしてクリアを目指す動線を作っているはずなのだが、実際にプレイをしてみた身としてはいささかちぐはぐな印象を受ける。テンションを高めてガンガン突き進める気になる戦闘パートとは違い、捜査パートはいまいち面白みを感じることができない。


問題点としては証言を重ね合わせる締めの設問がいまいち悪く、「あらかじめ答えを知っていないと適切な答えを選べない」という状態に陥っている。その答えは捜査でわかるようなものもあれば、到底わかりそうにないものも混じっている。ここでミスしたところで経験点ボーナスが少なくなるだけで戦闘パートに進めないということはないのだが、些か気分を害されてしまう。


また一部のサブイベントが嫌がらせの極地だ。段積みになったアイスクリームを購入し子供のいる場所へ運ぶ、というイベントだがコントローラーのジャイロにあわせてバランスが揺れるのでとにかくアイスが落ちる、こぼれる。そして通行人がこちらに向かってぶつかってくる! 当然ぶつかってしまうとアイスを落としてしまい失敗になる。プラチナゲームズの人々はこのサブイベントを楽しめたのだろうか? 恐ろしいハードアクションゲーマー集団である。




戦闘パートにも実は問題が内包されている。戦闘と戦闘の合間には小さなインターバルがあり場所を探索し次の場所へ進むためのスイッチを探したり、ギミックを解除したりする必要がある。(このあたりのパートはベヨネッタやワンダフル101をプレイしたことがあるプレイヤーなら「ああ、プラチナゲームズのあれね」とわかってくれるかと思う)

今作のそれは明らかにベヨネッタThe Wonderful 101に比べて低品質だ。
背景にまぎれてわからなくなっているスイッチ、面倒くさいギミック。ときには理不尽さすら覚えてしまう。はっきりいうとこのパートには「プレイ時間水増し」の要素しか感じ取ることができなかった。いざ敵が出現したときの戦闘のときのテンションの上がり方と相まってつまらなさが加速してしまう。

戦闘は本当に、本当に面白い。
巨大な敵が繰り出す攻撃を回避しつつ弱点はどこか。頭を弓で貫けばいいのか、いや大剣で連続攻撃すればスタンするんじゃないか、まてまてこの巨大な足をレギオンで拘束すれば……アドレナリンが全開になり敵の攻撃がスローモーションに見える。思考回路を全力で駆動させ攻略法を考える。その間も指はコントローラーを動かすのはやめない。スティックさばきに呼応して主人公は回避し攻撃を繰り出していく。その瞬間の高揚さは麻薬的だ。しかしいざ敵を倒してしまうと、探索や捜査パートに止められてしまう。やめてくれ。俺は戦いたいんだ。はやく、はやく俺に敵をくれ! 俺に生きる実感をくれ!


そうして戦闘ジャンキーになったプレイヤーにたいして無慈悲に探索ギミックは増えていく。麻薬中毒になった者にどんどん金を要求するがごとく。プレイヤーは涙と禁断症状を堪えながら必死で面白くもないギミックを解くことになるのだ。このゲームにはジャンプボタンがないのに浮遊板を連続で渡っていくギミックをやらされた時(落ちたら当然やり直し)にはさすがに「マリオ連れてこいマリオ!」と叫びそうになった。



最大の問題は最終盤のストーリーだ。章仕立てになりいよいよ最終章に到達したプレイヤーは不安に襲われる。とにかく今までのストーリーはどんどんと風呂敷が広がる一方だ。はたして最後の一章だけで全部の風呂敷をたたむことができるのだろうか? そしてラスボスを撃破したプレイヤーに与えられたエンディングは、まるで「打ち切りが決まったので急遽まとめた少年漫画」のようだった。……そんなところまで少年漫画らしく仕立てなくていいのに!


プラチナゲームズには神谷英樹というゲームストーリーの天才がいる。ベヨネッタ1であれだけキレイに決着をつけたはずなのに、ベヨネッタ2ではさらに1の要素を伏線として拾いつつ素晴らしいエンディングに仕立てた。The Wonderful 101では衝撃の展開を二重三重に重ねておきながらもエンディングではすっきりとすべてを解決させ希望の未来を見せてくれた。今作でも彼はスーパーバイザーという立場で参加している。彼ならばもっとすっきりとしたものが出来たはずだ、と思わずにはいられない。このような結末になった理由には色々とあるのだろうが、ただただ残念だ。



このゲームはプラチナの名に恥じない、確固たる面白さがその芯に走っている。しかしその外周部をぶよぶよとした贅肉で覆われてしまっている。神ゲーとの評価を得るためにはまず大規模な肉体改造とフィットネスが必要になるだろう。そしてそれができる人材はプラチナゲームズにはいるはずだ。次回作に期待したい。ベヨネッタ3を私は待っている。